モバイルとクラウドで医療情報を共有、保険適用第1号「Join」の潜在力

Technology

2016.11.29 Tue.  木原洋美

join%e3%83%88%e3%83%83%e3%83%97%e3%81%af%e3%81%93%e3%81%a1%e3%82%89

若手医師を絶体絶命にさせないアプリ

医師免許取得したて、超一流の永禄大学附属病院の研修医・斉藤英二郎は、民間病院での当直アルバイト2日目にして、単独診療を任される。深夜の病院に医師は自分だけ。まったく自信がない。狼狽する間もなく、交通事故による重傷患者が搬送されてきた。血まみれの患者を前に、震えが止まらない。(患者を死なせてしまうかもしれない)パニックに陥った斎藤は、患者と二名の看護師を残し、手術室から逃亡。暗い部屋の隅っこに隠れ、耳を塞ぎ、幼児のように泣きながら閉じこもってしまう。

――これは、2003年に放映されたドラマ『ブラックジャックによろしく』(TBS)第1話での出来事だ。

まさに患者も若手医師も絶体絶命! こんな時、別の場所にいる先輩や専門医たちが、あたかも傍らにいるように若手を落ち着かせ、診断の迷いを解決し、次々と適切な指示を出せるシステムがあったなら、どんなに心強いだろう。患者の救命率も格段に高まるに違いない。

そんな医療現場のニーズに応え、現場の医師自らが発案し、幾多の苦難を乗り越えて開発へとこぎつけたのが汎用画像診断装置用プログラム  Join(製造販売=株式会社アルム)。2014年11月に施行された医薬品医療機器等法で、新たに医療機器として認められるようになった医療用ソフトウエア(単体プログラム)の保険適用第1号となった。

協働で開発を進め、誕生させたのは、東京慈恵会医科大学 脳神経外科 教授の村山雄一医師らのグループと医療ベンチャー企業のアルム。

スマホなどのモバイル端末とクラウド環境を使い、手術室やICUに設置したカメラからのリアルタイム動画配信や、コンピューター断層撮影装置(CT)などで撮影した医用画像の共有ができる。DICOMビューワーで医用画像を表示することができ、診療に利用可能だ。もちろんチャット機能によるメッセージのやりとりもLINEのような手軽さで簡単にできる。また同一病院のチーム内利用だけでなく、病院間連携により他病院の医師との情報連携や患者の転院相談などにも利用される。

LINEのような手軽さで医療関係者間のコミュニケーションが可能。医用画像の共有も簡単にできる。

時間との戦いを制する

「当時、院内に脳卒中の血管内治療ができる医者は私しかいなかったので、24時間365日緊急で呼び出される日々でした。
しかも緊急対応するにしても、やはり患部の画像が見られないと状態がよくわからないので判断できない。急いで病院へ駆けつけても、手術の必要がないケースもよくありました。
それで、画像がいつでもどこでも手軽に見られたらいいのに、と考えた。
あの頃、脳内出血を起こした妊婦が『たらい回し』にされて死亡する事件も起きました。あのような事件も、画像がどこでも見られて、いつでも専門医と相談できるシステムがあれば防げるだろうと思ったのです」

そう語る村山は、脳動脈瘤などの脳血管内治療のエキスパートとして世界に名の知れた存在。開頭せずに脳動脈瘤を治療する塞栓用コイルの開発者としても有名だ。

冒頭の研修医のように、逃亡には至らないまでも、未熟な若手医師が、夜明けをひたすら待ちながら、心細い当直に従事する状況は、今も日本全国で起きている。

また、たとえベテラン医師であっても、専門外の疾患が疑われる困難な患者に対して、適切な治療を行うのは難しい。

脳卒中は、そうした疾患の代表だ。かつては日本人の死因トップだったが、近年、治療法の進歩により、救命率は飛躍的に高まった。ただ現在も、後遺症となるケースは多く、要介護になる最大の疾患となっている。
脳卒中の治療は、時間との戦いだ。時間が経つほど症状は進行し、治療開始が早いほど機能回復は良好となる。

たとえば脳の血管が詰まる脳梗塞に対する治療の主流は、手術ではなく、2005年から保険適用になった血栓溶解剤「tPA」だが、投与には、発症から4時間半以内というタイムリミットがある。血管が詰まっている範囲が脳の広範囲に及んでいたり、血圧が高かったりする患者はtPA投与で脳出血を起こすリスクが高いため、近年はカテーテルによる血管内治療が第一選択肢になりつつある。素早く適切な治療を選ぶには、専門医の存在が不可欠だ。

未破裂脳動脈瘤の破裂で起こるくも膜下出血治療は、最初の出血で助かっても再破裂での死亡リスクが高い。クリップで破裂個所を止血する開頭手術と血管内治療があるが、こちらもまた動脈瘤の場所や大きさで最適な治療法は異なる。ただし、治療は一刻を争うことだけは変わらない。

しかも現実問題として、専門医が常時待機している施設は都市部でも限られており、まして地方では圧倒的に不足している地域もある。

Joinは、こうした時間帯や地域格差による専門医不在の問題を改善する、画期的なシステムとして期待されている。

Share