モバイルとクラウドで医療情報を共有、保険適用第1号「Join」の潜在力

Technology

2016.11.29 Tue.  木原洋美

富士フィルムとの決別

「『下町ロケット』というドラマがあったでしょ、まさにあんな感じでしたよ」
Join開発における苦難の道のりを、村山は疲れ切った表情で振り返る。

実はJoinには、前身となる医療用ソフトウエア「i-Stroke(アイストローク)」が存在する。一刻を争う脳血管疾患の治療を、医療関係者間の連携を通じて迅速かつ的確に行えるようにするというコンセプトは共通だ。

ならば、i-StrokeからJoinへ、開発は同一の企業が通しで担当するのが自然であろう。

しかし、i-Strokeは富士フィルムが、Joinはアルムが開発した。

理由は、追求するビジネスモデルの違いだ。

「富士フィルムが目指したのはアプリとサーバーをセットで販売するビジネスであり、ターゲットも、日本国内限定でした。すると導入の経費はどうしても高額になります。
一方我々は、価格をできるだけ安価に抑え、世界中どこの病院でも、どの医者でも手軽に利用できるようにしたかった。世界展開を見据えていたのです。
でも、受け入れてもらえませんでした」

村山は悔しがる。

「最終的に富士フィルムは開発から手を引くことになったのですが、その際、我々が持っていた権利をすべて引き渡すよう申し入れがありました。
無論、即座にお断りしました。我々は、我々が目指す方向で、なんとしても開発を成し遂げるつもりでしたから」(村山)

将来的な収益を予測した場合、村山たちがめざすビジネスモデルでは、とても採算が合わないと富士フィルム側は判断したのだろう。
そのスタンスは、ビジネスマンなら当然かもしれない。

しかし、世界の医療現場が抱える課題の解決に必ず役立つ開発プロジェクトが、道半ばにして座礁してしまうことが、村山は無念でならなかった。

ドコモ、アルムとの連携

窮地に陥った村山たちに、最初に手を差し伸べたのはNTTドコモだ。医療分野のIT化推進に貢献することを方針として掲げていた同社は、村山たちの考え方に賛同し、開発費の提供も含めた共同研究を約束してくれた。

そして開発を引き受けてくれたのはアルム。

「医療界ではまったく無名のベンチャー企業」と、村山の右腕・高尾洋之(慈恵医大准教授)が語る同社は、医療・介護分野のモバイルICTの構築等をメインに行うIT企業で、富士フィルムと村山たちの事業にも技術者として絡んでいた。

アルムの動きは早かった。2012年、社長の坂野哲平は、連携を決めると、一気にプロジェクトを前に進めた。

東京慈恵会医科大学 脳神経外科准教授高尾洋之医師(左)、同教授 村山雄一医師(右)
東京慈恵会医科大学 脳神経外科教授 村山雄一医師(右)、同准教授高尾洋之医師(左)
株式会社アルム 代表取締役社長 坂野 哲平
株式会社アルム 代表取締役社長 坂野 哲平

まず取り組んだのは、コンセプトの刷新だ。

村山、高尾らと議論を重ねた結果、「より安価に導入できて、かつ対応困難な事態が生じた場合のみに使うというよりは、LINEのように、普段から便利に使えるコミュニケーションアプリ」をめざすことに変えた。

「医療現場で起きていることは、世界中見渡してもそんなに変わりません。なのでアプリは、海外も含めて、同一スペックのものを販売できるようにしようと考えました。
機能を複雑にすると、説明するのも難しくなります。さらにドクターたちが使うのも難しくなりますから、あまりいいことがありません。
だから、説明が必要な機能は極力省いて、シンプルに持って行きました。
弊社が対象とするマーケットは、既に半分は海外でしたから、海外での使用を前提に開発することは、まったく自然な流れでもありました」(坂野)

Joinは、初めてでも使い方をイメージしやすいシンプルな設計。リアルタイムでの動画配信も可能となっている。
Joinは、初めてでも使い方をイメージしやすいシンプルな設計。リアルタイムでの動画配信も可能となっている。
Share