AIと医師との協業の形とは――自治医科大学・石川 鎮清教授インタビュー

Opinion

2016.11.29 Tue.  奥田由意

AIを用いた総合診療支援システム「ホワイト・ジャック」。2017年度には、自治医科大学附属病院にて教師症例の蓄積のための試験運用が始まる予定だ。臨床の現場において、AIと医師はどのように協業すべきか。「ホワイト・ジャック」の開発に携わった自治医科大学医学教育センター・石川鎮清教授にお話を伺った。

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自治医科大学医学教育センター・石川鎮清教授

―― 医療分野でもAIの活用が始まっています。AIに何ができるのでしょうか。

石川教授 AIの特徴は、人間の学習速度を遥かに超えたデータ蓄積と演算の結果、人間が見落としがちな結果や考えもしなかった可能性を含めて提示できることです。AIに期待を寄せすぎる論調や、逆に脅威論もありますが、大前提として、その技術をどのように使うか、という使う側のコンセプトが重要で、運用の目標・目的があってこそ、何ができるのかということが問えると思っています。

―― AIはあくまで道具で、その道具は使いようということですね。

石川教授 自治医科大学では、問診や既往データなどからAIの解析で、さまざま診断結果と受けるべき検査や処方、治療プランなどを支援的に示す「ホワイト・ジャック」というシステムの実用化を進めています。たとえばある痛みの症状から提示された結果のうち、どれを選択するか「判断」し、実際に「診療を下す」のはあくまで医師です。むろん、診断の結果に「責任を負う」のも医師です。AIにそれをさせるために研究をしているわけではありません。

―― 診断という判断と責任がともなう行為はあくまで人間のものであると。

石川教授 そのうえで、利点としては、経験の浅い医師や、地方で相談相手がいない医師にとって、初めて来た患者の症状から、あるいは病気自体を診たことのない場合に、診断を下す拠り所として大きな支援になります。

専門的、あるいはまれな症例に対しても、システムが可能性を提示することで人間に特有の「うっかり」という見逃しや誤診を回避できます。

さらに、ベテランの医師や専門医にとっては「治療の均霑化(きんてんか)」を促す意味もあります。医師にはそれぞれ、同じ疾患でも、成功体験などに基づいた、自分なりの処方、治療の嗜好や、傾向、癖のようなものがあります。それを他の医師の処方や治療プロセスを参照することにより、偏りがなくなっていくという効果を期待します。

ほかには副作用の可能性をAIが示唆して、それが出ない処方や治療を選択するという点でも有益です。現在のホワイト・ジャックのシステムとは別ですが、将来的には、診療時の問診ややりとりの記録を患者が許可すれば、カルテの作成は音声を文字化するAIに任せて、医師は患者さんの表情を診たり、触診などに時間を割くこともできるようになればと思っています。

このように、致命的なミスを防ぐアラートとして機能したり、より最適な選択や診断をするための非常に心強い「相棒」になり得ます。ただし、何度も言いますがそれは結局われわれがどのようにゴールを設定するか、はっきりとした目的、目標のもとに自覚的に使えるかどうか次第なのです。

―― ところで、余談で恐縮ですが「ホワイト・ジャック」の命名は手塚治虫作のもぐりの天才医師が活躍する漫画『ブラック・ジャック』と関係がありますか。

石川教授 手塚プロにもお伺いを立て、快諾をいただいています。主人公は医師免許がないので「ブラック」を名乗っています。われわれは一応医師の免許を持っていて、白衣も着ていますから(笑)、あやかって、ブラックの逆、「ホワイト」と名付けさせてもらいました。名付けたからには、名前に恥じない活躍ができるようにという励みにもなります。

取材日:2016年9月7日

石川 鎮清 Ishikawa Shizukiyo

自治医科大学医学教育センター 教授

Writer Profile

奥田由意 Okuda Yui

フリーランスライター

ビジネス書の出版社ダイヤモンド社勤務ののち独立。ダイヤモンド社出版物やダイヤモンド・オンライン、プレジデント社の「プレジデント・ウーマン」などで記事執筆。誠文堂新光社のデザイン雑誌「アイデア」などで翻訳も手がける。

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