AI診療支援「ホワイト・ジャック」、自治医科大学で臨床運用へ

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2016.11.29 Tue.  奥田由意

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僻地・地域医療の総合臨床をリードする自治医科大で、AIを用いた総合診療支援システム「ホワイト・ジャック」の臨床の場での運用が始まろうとしている。

地方の診療所などでは、経験の浅い医師が一人で患者を診なければならない。このシステムに症状を入力すれば、AIが膨大なデータの中から可能性のある病名を確率の高い順にすべて示す。いずれ必要な処方や検査、治療方針を提示するようになる。初めての患者や、初めて見る症状を鑑別する際の大きな助けになるはずだ。これによりベテラン医師であっても、見落としや診断の偏りを回避できる。

自治医大はかつて、8000万件のデータを使って地域医療の分析を行った実績がある。「ホワイト・ジャック」では、頻度の高い疾患だけでなく、医師が経験に学んだような確率は低くても見落とすと致命的な疾患も表示させることで、単純な確率論ではヒットしない症例もカバーする予定だ。

実用化までには、自治医科大の臨床の場で診療データを1、2年程度積み上げることで、診断の精度を現実に近づける。運用すればするほど鑑別の精度は上がっていく。

臨床の場では、患者の問診データが時系列で記録される。生活習慣のデータも利用し、参照データとして取り込むことで、リアルタイムで適切な治療方針を提案することも可能になる。

2017年度内には、附属病院で教師症例の蓄積のための試験運用を開始する。2018年に数カ所の医療機関でも試験運用し、その後モニター使用の医療機関を公募。その成果を踏まえ汎用化する。自治医科大のデータベースにアクセスするため、自前でサーバーを持つ必要はなく低コストで運用できるようにする。まだ構想段階ではあるが、副作用の検出への応用ももくろむ。

ただ、実用化にあたっては、懸念もある。ひとつは医療機関の意思決定のプロセスが複雑なことだ。技術的には導入可能でも、すぐに現場で使えるわけではない。
また改正個人情報保護法のゆくえ次第で、本人同意がより厳密、厳格になるのは必至で、診療データの蓄積が容易には進まない可能性もある。

とはいえ、「AIの診療支援は実はほんの入口に過ぎない」と同大学の石川鎮清教授。「患者の生活習慣も含めて把握し、総合的な地域医療データベースを構築することで、地域特有の疾患の治療や、予防医学につなげるのが本当のゴール」という。「ホワイト・ジャック」は地域医療というはるかな射程のもとにある、確かな一歩を踏み出す。

取材日:2016年9月7日

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