5mlの血液で7種類のがんリスクを判定! アミノインデックスのがん検診最新情報

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2016.12.01 Thu.  奥田由意

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手軽に早い段階で異常を検出できる

たった5mlの血液で、一挙に7種類のがんリスクを判定でき、しかも早い段階での発見が可能という手軽な検査。味の素が開発した、「アミノインデックスがんリスクスクリーニング(AICS)」のがんリスク検査は2011年の実用化から5年以上が経過した。現在全国1160の医療機関で導入され、のべ15万人が受診している。検査の手軽さもさりながら、血中のアミノ酸の濃度によるがんリスク判定は、遺伝的リスクとは別の、あくまで現在の身体の状態を示す指標だ。また、異常を早い段階で検出できる可能性があるという点が、ほかのがん検診にない強みだ。

人体を含む生体には環境が変化しても内部の状態を一定に保つ、ホメオスタシス(恒常性)という性質がある。人体の約20%はタンパク質でできており、そのタンパク質は約20種類のアミノ酸から成る。タンパク質が分解してアミノ酸になる一方で、アミノ酸からタンパク質が合成されるという仕組みを使って血液中のアミノ酸濃度はホメオスタシスが保たれている。しかし、身体に異常が起こると、ホメオスタシスが崩れ、アミノ酸濃度バランスが変化する。

これまで肝疾患や自己免疫疾患、糖代謝の異常など、さまざまな疾患について血中のアミノ酸濃度の変化が多くの論文で報告されている。アミノ酸利用を幅広く研究する味の素では、その濃度の変化をがん検査にも活かせないかと研究を重ねてきた。統計的に有意な数の罹患者と健康な人の比較データをそろえ、精度の高い計算式を確立した。しかし、実用化までにはいくつかの障害があった。

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地道なデータ収集で半信半疑だった医師たちを説得

当初は血中のアミノ酸の濃度でがんリスクが判定できるのか、研究に携わった一部の医師は半信半疑だったという。
「がん細胞と健康な細胞では要求するアミノ酸が違うこと、がんになると免疫細胞の活性化によりアミノ酸濃度が変化すること、炎症や免疫反応を引き起こすサイトカインというタンパク質が健康な細胞に作用し、それによってもアミノ酸の濃度が変わることなど、データを地道に集めて提示することで、医師たちの理解を得てきた」と味の素アミノサイエンス事業本部のサイエンス統括本部アミノインデックスグループ長の小倉康彦氏は振り返る。

アミノ酸分析に1回2時間以上かかっていたことも事業化の阻害要因だった。分析技術の進歩で7分にまで縮まったことが大きなターニングポイントだった。

さらには「温度の壁」もあった。病院で採血された血液は常温で取り扱われることが一般的だ。採取した血液を速やかに氷冷、処理しなければ血中アミノ酸濃度は変化してしまう。この問題を解決するため、採血管を氷冷で保存する冷却容器「キューブクーラー」を開発した。

膵臓がんのリスク評価もスタート

検査に採用する医療機関や受診者数が増えるなか、昨年からは膵臓がんが新たに加わった。膵臓がんは約6割が手術不能の進行がんの段階で発見され、治療開始から5年後の生存確率を示す「5年生存率」も7%と低い難治性がんだ。360名の膵臓がん患者と8000名以上の健康な人の臨床症例を集め、切除が可能な早期の段階(ステージII)でも有効な検査結果が得られることが証明された。

「有効な症例データを集めるのに困難を極めるため、今後はがん検査の種類を増やすのではなく、既存のがん検査(胃、大腸、肺、膵臓、前立腺、乳がん、子宮・卵巣がん)の確度を上げていく方針」(味の素アミノサイエンス事業本部アミノサイエンス統括部アミノインデックスグループ長小倉康彦氏)

血中のアミノ酸濃度はがん以外の疾患でも変化するため、応用可能性は限りなく広い。応用には莫大な臨床データの収集と解析が必要だが、あくまでも事業性との見合いで研究を進めるかどうかが決まる。がん以外では、たとえば内臓脂肪の状態を見る指標としてメタボリックシンドロームの予防や、脳疾患、心筋梗塞のリスク判定など、社会的な課題と歩調を合わせていくことになる。

Writer Profile

奥田由意 Okuda Yui

フリーランスライター

ビジネス書の出版社ダイヤモンド社勤務ののち独立。ダイヤモンド社出版物やダイヤモンド・オンライン、プレジデント社の「プレジデント・ウーマン」などで記事執筆。誠文堂新光社のデザイン雑誌「アイデア」などで翻訳も手がける。

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