人工知能とヘルスケア――Health 2.0 Asia – Japanレポート

Technology

2016.12.21 Wed.  奥田由意

医療・ヘルステック分野の新たな取り組みやプロダクト、サービスを紹介する国際カンファレンス「Health 2.0 Asia – Japan」。人工知能のヘルスケア分野の応用については、実際の開発に関わる演者から、AIの有効性から課題、実際のサービスデモからAIを応用したヘルスケアの展望までが幅広く語られた。今回はそのダイジェストをお届けする。

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公式プログラムより
<概要>
人工知能をヘルスケア分野でどう活かすか。もっとも新しいトピックをめぐるセッション。各分野で実際のアルゴリズムの設計に取り組んでいる演者3人が語るヘルスケアの未来。

<モデレーター>
Matthew Holt Health 2.0

<スピーカー>
武田秀樹 株式会社FRONTEOヘルスケア
山寺純 株式会社Eyes, JAPAN
Guido Pusiol スタンフォード大学

このセッションでは人工知能がヘルスケアにどのように関わるかをテーマに、AIを使った入院患者の転倒防止システム、サームセットというサーモグラフィー動画を使った高齢者の介護支援システム、唾液からがんを判定するしくみ、などの紹介があった。

モデレーターのマシュー・ホルト氏は「AIによって医師の8割が置き換わるとの観測があるが、それは医師の機能の8割が置き換わるという意味で、ドクターはパイロットのようなものになるだろう」と述べた。
AIの使用は「アルゴリズムを使うことで、より自分そのものがわかる」、「人間のミスを正す」という意義がある、という意見も出された。

FRONTEOヘルスケアの武田氏は、「AIにより、今までできなかった高度な抽象化を伴ったことが代替され、判断の客観性があがる。同時に医療従事者のワークロードも下がる」とメリットを述べたうえで、「解決すべき課題として、自社で手がけたうつ病の評価アルゴリズムを例に

  • クラウドに上げたデータと照合して判断して、診断結果を返す際に、そのクラウドの安全性が問題になる
  • 診断のもとになるデータが増えれば、AIが行っている機械学習の判断が変わる可能性があるが、判断の変化を学習していくことをどう実証し、信頼性を担保するか
  • 実地の診療に導入する際に、機械学習の結果導き出された評価指標で法的な承認をどのように得るか

などを挙げた。

AI脅威論については、Eyes, JAPANの山寺氏が、「人間の脳のデータをコンピューターに入れることで、永遠に生き続けることができるシンギュラリティ(人工知能が人間を超えて世界が変容するという予測)はすばらしい。人間の仕事がAIに置き換わるのは脅威ではあるが、必要最低限の所得を保証するベーシック・インカムの精度を整えれば、AIに職を奪われるのではなく、人間は仕事から解放されるといえる」と述べた。一方、FRONTEOヘルスケアの武田氏は、LITALICO社と取り組んでいる精神障がい者の就労支援におて、AIによる日報のテキスト分析から精神バランスの悪化をアラートしているサービスを例に挙げ、「AIに負けたくないと現場スタッフの士気があがったり、AIの予測から若手スタッフが学ぶといった『AIを通じた知の伝承』が起こっている」とそのメリットについても指摘した。

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株式会社Eyes, JAPAN 山寺純氏

デモでは、Eyes, JAPANは唾液を使ったがんの判定について説明した。がんを発症、あるいは発症前の段階で、サイントカインという細胞の免疫にかかわる蛋白質の状態が変わる。それをAIで分析し、がんの発症を判断したり予測するというものだ。40年分のデータや20万本異常の論文を読み込ませたアルゴリズムを使う。
「唾液の採取は人体に負担がなく、また検査も早くて容易、さらにがんを発症する部位が特定できるという利点がある」(山寺氏)。医学は予測可能、予防可能なものになると指摘した。

スタンフォード大学のボイド氏は、家で寝たきりの患者に対し、サーモグラフィーのセンサーを使い、その動画をAIに解析させて、介護の補助、自立の支援に役立つシステムを発表。熱で反応するセンサーなので、布団のなかの状態や、夜でもなにが起きているか把握できる。また、「過去の膨大なデータに照らすことで、いま起こっていることの意味も判断できる」(ボイド氏)。カメラ自体が高性能である必要はなく、比較的安価な見守りシステムとしての可能性を強調した。

FRONTEOヘルスケアは、NTT東日本関東病院と開発した電子カルテの記述をAIで分析し、入院患者の転倒・転倒を予測するシステムを紹介。転倒しやすい患者は、カルテの記述に「自立歩行ができる」ことと「意識が朦朧としている、せん妄状態にある、注意力が低下している」という意味の内容があることなどが共通で、それを膨大なカルテの記述から割り出して、スコアリングし、転倒しやすさを判断する。「看護師の負担を減らし、院内の重大事故を防ぐ」(武田氏)。現在では50%ほどの予測ができているという。

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人間が最終的な意思決定をするために、AIをどのように実装するかという課題や、見守りシステムや予測システムなど、医療行為ではない、AIを用いたヘルスケアをどのように医療制度に組み込むのか、医療制度自体の変革が必要などの論点が出されセッションは締めくくられた。

Writer Profile

奥田由意 Okuda Yui

フリーランスライター

ビジネス書の出版社ダイヤモンド社勤務ののち独立。ダイヤモンド社出版物やダイヤモンド・オンライン、プレジデント社の「プレジデント・ウーマン」などで記事執筆。誠文堂新光社のデザイン雑誌「アイデア」などで翻訳も手がける。

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