デジタルヘルスベンチャーへのVCの視点 慶應イノベーション・イニシアティブ 代表取締役社長 山岸広太郎氏

Opinion

2017.02.24 Fri.  奥田由意

慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)は慶應学術事業会(80%)野村ホールディングス(20%)出資のベンチャーキャピタルで、45億円のファンド規模で2016年7月よりスタート。慶應義塾大学の研究成果を活用したベンチャー企業の投資育成を通じて、大学の研究成果の社会実装を推進し、新産業の創出によって社会の発展に貢献することをミッションとしています。開発に時間のかかることもある研究開発系のスタートアップ企業20社ほどに、1社あたり2億円程度、最大5億円ほどを投資していく計画です。

これまで3件に投資し、うち2件がヘルスケア領域の事業。代表取締役社長の山岸広太郎氏も「2017年は医療・ヘルスケア関連のベンチャーが盛り上がると予想します。特に、バイオとデジタルヘルス関連の投資が盛り上がると考えています」(「TechCrunch Japan」2016年12月29日記事より)と医療・ヘルスケア分野に注目しています。山岸氏に投資方針、これまでの投資案件や、今後の業界動向、医療系のベンチャーが資金調達するための要件などを聞きました。

――まず、KIIの投資方針について教えてください。

慶應義塾大学の研究成果を活用したものであり、かつ新産業を創出するものであることが前提です。ビジネスモデルやアイデアにインパクトとポテンシャルがあるものを選んでいます。当然ながら、投資なので、安く買って高く売るわけです。利回りが確保できることも条件です。これからどう化けるかわからない事業に投資するという意味で、サイエンスの部分でのリスクはとりますが、反面ビジネスのリスクを最小にすることが必要です。KPIがしっかりしているか、とか、経営陣が信頼に足るか、事業としてうまくまわるかという基準で見ています。

ベンチャーキャピタル(VC)であることの意義は、持続可能であることだと思っています。というのは、たとえばメセナブームなど、寄付や福祉という観点の場合、時代の潮流次第でお金が流れる先がすぐに変わってしまうということがあります。VCであれば、利回りがとれれば投資家が集まるので、利回りさえしっかりしていれば、社会貢献として持続できるというのが大きな利点です。

――具体的な事例では、2016年12月に第2号投資案件として、大阪大学発、慶應義塾大学医学部の研究成果を活用した再生医療・創薬ベンチャーで、HGF医薬品の実用化を手がけるクリングルファーマに投資されています。

HGF(肝細胞増殖因子 Hepatocyte growth factor)は生体内の再生修復因子であり、様々な難治性疾患の画期的な治療薬となる可能性を秘めています。神経難病(脊髄損傷急性期、筋萎縮性側索硬化症(ALS))への効果が期待されており、現在治験中です。HGF医薬品とCYBERDYNE社の「医療用HAL®」(世界初のロボット治療機器)によるサイバニック治療を組み合わせ、脊髄損傷やALSの患者さんに対する新しい複合治療が誕生することにも期待が寄せられています。今後の再生医療の実用化にもHGFの重要性は高まっていると考えています。

投資の決め手は、脊髄損傷やALSにはこれまで有効な治療薬がなく、HGFの開発に十二分の意義があること、そしてもちろん慶應義塾大学の研究成果を活用している点です。

――そして、2017年2月には、第3号投資案件として、慶應義塾大学医学部の研究成果を活用したデジタルヘルス分野のベンチャー、キュア・アップを選ばれました。

事業内容としては「治療アプリ」の開発です。アプリは二種類あります。まず、ニコチン依存症治療用アプリ。これは、慶應義塾大学医学部呼吸器内科との共同開発で、複数の施設での共同臨床研究を2015年2月より進めています。臨床研究によれば、禁煙の成功率が向上しているそうで、これはアメリカにある同種の事業に比べて、進捗で勝っていると聞いています。

もうひとつは非アルコール性脂肪肝炎(NASH)治療アプリです。東京大学医学部附属病院との共同研究で、昨年10月から臨床研究をしています。脂肪肝とひとくちにいっても、メタボリックシンドロームほど進行していない場合は、「がんばって3割痩せて下さい」で終わりなのです。このアプリでは、患者さんの行動をモニタリングし、AIが適切な介入を行うことで患者さんを励まし続けます。

アプリによって、注意喚起など、管理を継続すれば、医療の効率化につながり、ひいては医療費削減、健康寿命の延伸にも寄与します。二種類とも、データをとりつつ行動介入しながら患者さんの行動変容をうながすなかで、エビデンスを蓄積できるのが利点です。食事のコントロールが必須となる糖尿病など、関連する疾患への横展開での応用も可能です。

投資の決め手は保険適用を目指しているため、今後の資金回収の道筋が描きやすいことと、だれのためのどんなサービスなのか、どのようなプロセスを経て、利用者に価値がもたらされるのかなど、受益者やバリューチェーンが明確であることです。継続すれば治療効果が上がる可能性が高いことは直感的にも明らかですが、効果のエビデンスが蓄積されればされるほど、ビジネスリスクは少ないと判断しました。

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