為末大が未来を見る ヘルスケア・医療のこれから(後) ―AIと医師は北風と太陽に、パラリンピックが少子高齢化社会の壮大な実証実験の場に

Opinion

2017.02.16 Thu. 

元アスリートでありながら、テクノロジー、ヘルスケア、医療など、あらゆる分野の専門家とつながり知見を蓄えている為末大さん。2016年12月にオープンした「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」の館長を務め、また、障がい者アスリート向けの義足「Xiborg」の開発にも携わっている。スポーツでどのように社会課題を解決しようとしているのか。ヘルスケア、医療とスポーツはこれからどんな関係になっていくのだろうか。

新豊洲Brilliaランニングスタジアムの館長も務める為末氏。背後に見えるのは同施設のトラック

――スポーツとヘルスケアはこれからどんな関係になっていくでしょうか。また、ヘルスケアテクノロジーはそこにどのように介在してくるのでしょうか。

現役時代から「個別化」ということに興味がありました。何かと言うと、個人の生体データに応じた競技やトレーニングの選択です。たとえば、僕は骨盤の形状が原因で、膝に負担がかかりやすいんです。このタイプには、衝撃の強いジョギングよりも、ウエイトや自転車などの方がよいと言われています。つまり、筋繊維や骨格などの生体データにより、適切な運動や薬が判断できるのです。例えば、これに過去の運動歴を足すと、あなたには軽負荷の有酸素運動が大事だけど、ジョギングより昔部活でやっていた水泳がよいですよ、といった風に。今後、個人に最適化された運動の処方箋”みたいなものが、ヘルステックの進化によって可能になってくると思います。

――前回のインタビューで医療の領域に「コンディショニング」が入ってくるとの指摘もありました。ヘルスケアのイノベーションが起きる中で、医師の役割はどのように変わっていくでしょうか。

医師は、より「患者さんの納得感を醸成するプロセス」への貢献が求められるようになるのではないでしょうか。スポーツのみならず、医療においても人工知能が医師に替わって診断をするようになってくるでしょう。病気の診断のみならず、コンディショニングに関しての診断もそうです。ですが、その診断を患者さんに伝え、前向きに治療に向かわせるのは医師にしかできない重要な役割であると思います。今までもそうでしたが、これからますますその役割が重視されるのではないでしょうか。テクノロジーが発達するからこそ、人間にしかできないコミュニケーションプロセスがより重要になる。

おもしろい事例があります。全身麻痺の方が車椅子の肘掛けを調整するにあたり、これは高すぎる、と言うので低くした。すると今度は低すぎると言う。そのやりとりを何度か繰り返したあと、ここだと言った高さは最初に設定した高さだったというんです。実はここにこそ人間の介在価値があるんです。納得のプロセスというのは、人間同士でやらないと得られないということですどんなに診断が的確であっても、データ上こうだとロジカルに示されても、すぐに納得できるものでもないですよね。それを納得いくまで説明し治療法を一緒に選択するのは医師の役割です。選択肢は多すぎても選べないし、少なすぎると決めつけられている抵抗感があります。治療には患者さんの納得感と主体性が欠かせない。主体性を奪いすぎず、迷わせすぎない。医師にはそんな高度なコミュニケーションの達人であることが求められるのではないでしょうか。人工知能と医師・専門家が、そのバランスを見極めながら一緒に進んでいく。そういう時代になっていくと思います。

これは、スポーツ選手における監督やコーチの役割にも似ています。北風と太陽の話に例えると、人工知能が北風で監督が太陽です。

――自分のヘルスケアに最適なレコメンドがあったとして、それを始める、さらに続けるということに関しては非常にハードルが高いように思います。

予防医療学者の石川善樹さんが言うには、ローマ時代にすでに人が健康になるには、適度な運動、適度な休養が必要だとわかっていたそうなんですね。それなのに、いかにそれを実行するかということについて、いまだに人は悩み続けているんですね。スポーツにおいても、やろうと思う、計画する、実行する、習慣に落とすという段階があります。それぞれ難しさがあって、やろうと思うのは簡単ですが、実行する、さらに習慣に落とすのはとても難易度が高い。必要なことは、インセンティブやロールモデルをうまく組み合わせながら働きかけ続けること。1つこんなものがあればいいなと思うのは、人に行動変容が起きた瞬間を残さずデータで取って、数値化する。それが知見となり、人間の行動のビッグデータとなりうる。忍耐のビッグデータですね。現在こんな研究があるかはわかりません。でもヘルステックの領域に入ってくるのではないかと思います。

それから、人間はおもしろいことに弱いものです。ポケモンGOでも十分検証されました。忍耐の必要なことを、いかに面白くするか。アプリやゲームなどといったツールが役に立つでしょう。

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