為末大が未来を見る ヘルスケア・医療のこれから(前) ――「コンディショニング」が新たな医療領域になる

Opinion

2017.02.14 Tue. 

世界陸上・男子400メートル障害で2度の銅メダルを獲得した元アスリート為末大さん。現役時代から、スポーツによる社会問題の解決に深い興味があった。「走る哲学者」と言われ、柔軟な思想ととにかく旺盛な好奇心で数々のハードルに立ち向かってきた。そんな彼の最近の関心ごとが、テクノロジー×ヘルスケア。為末大さんから見える、ヘルスケア・医療分野の未来図を聞いた。

――ロボットや人工知能などのテクノロジー、それらを含むヘルスケア、医療に興味を持ったきっかけは何ですか。また、気になっているテーマを教えてください。

僕に通底しているテーマが「人間を理解する」なんです。これは現役時代から競技を通してずっと考えてきました。テクノロジーに興味があるというよりはそれが人間にどんな影響を与え、どう共存していくのか。そこに興味があるんです。

たとえば、産業革命が進み、ITが急速に進化したことで、わたしたちは無意識に働き方や生活の仕方が変わってきています。その現状と未来図について考えを巡らせることが好きなんですね。僕は好奇心のかたまりなので、どんどん知りたいし、納得したい。だから、いろいろな人と会って話をしています。

僕が気になっているテーマの一つに、「長寿」があります。医療技術が発達し、乳幼児の死亡率も下がって、疫病にかかることも少なくなりました。社会のインフラも整いました。なのに、「長寿」が現実のものとなってくると途端に「少子高齢化」など「長寿」の負の側面が問題化してきた。

長生きしたいって、子どもの頃からの万人の夢だったはずです。誰だって死にたくないし、そのために日本の社会は、なるべく死ななくて、なるべく豊かな生活ができるように努力してきたはず。長寿で個人は、確かに幸せを向上させてきたのに、社会では課題が顕在化する。

少子高齢化社会が問題だとして、その経済的な解決策は、単純に言ってしまうとたくさん子どもが生まれて、老いたら早く死ぬということしかありません。社会的な解決方法と個々人の幸せとがまったく違うんですね。そのことに僕は非常に興味があるんです。

「長寿」社会になると、私たちが当たり前のように思っていた人間の一生のプロセスが変わることもあるかもしれないと思っています。たとえば、水泳選手の引退年齢はほんのすこし前までは23、24歳と言われていました。それが、鈴木大地さんや彼に続く選手たちが競技年齢を伸ばし、今では30歳過ぎの現役選手もたくさんいます。昔は水泳というスポーツは限界が早く来ると言われていて、それに関する研究もされるくらいまことしやかでした。それが引退する選手がいなくなってくると、それがあたりまえになったわけです。つまり、相当なエリアにおいて、わたしたちは思い込みとあたりまえに支配されているんです。僕は、それらが転換されることに非常に興味がありますし、長寿に関してもそういった思い込みが覆される事態になるのではないかと思っています。

たとえば長寿とともに健康年齢も引き上げられて85歳定年制が導入され、それがあたりまえ化するとします。すると、80歳の人が65歳の部下に向かって「お前みたいな若造が〜」と叱る、みたいな世界が来るんじゃないかと思っています。65歳は今の感覚では全然若くはないにも関わらず。実際、昔は元服した20代の武将が「20代の中盤になると世の中がわかるものだ」と17、8歳の部下に言ったなんていう記述が残っています。要は、所詮そんなものなんです。社会の中の思い込みが、あるタイミングであたりまえに転換したときに、「長寿」の負の側面は消え去り、すばらしいことだと人は受け取り始めるんじゃないかと。

もちろん、その転換期をただ待っているのではなく、我々の日々の営みの改善やヘルスケアの知見、適切な医療がうまく合わさったとき、明るい未来があるんじゃないかと思っています。そこには、やはりテクノロジーが大きく関わっていくのではないのでしょうか。

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