為末大が未来を見る ヘルスケア・医療のこれから(前) ――「コンディショニング」が新たな医療領域になる

Opinion

2017.02.14 Tue. 

――「長寿」は医療との関わりも大きいです。医療領域で今後、どのような分野が私たちの健康への思い込みを覆すことになるとお考えですか?

こうしたらいいな、こうなったらいいなということで挙げると、2つあると思います。ひとつは、「コンディショニング」という考え方。今の医療領域は「問題が起きたとき」「不調」時を扱うものですよね。僕は「普通」から「より好調」の間にも医療が入っていくべきだと考えています好調を保つ、つまり、アスリートの世界では「コンディショニング」と言いますが、好調を保つということを研究すれば、状態が悪くなる要因がみえてくるはずです。医療費が40兆円を超えた現状を受け、「予防医学」の重要性が訴えられていますが、コンディショニングはそれとは少し意味合いが違う。予防医学というと「下に落ちないようにする」という意味合いが強いように思いますが、コンディショニングはパフォーマンスを高く維持するためものであり、今後はこちらの考えにシフトすべきだと思います。

もうひとつ、個人の身体データに、ソーシャルな環境がいかに影響を与えるかということが今後わかってくると思います。今は個人の身体データは閉じられたものですが、その人が誰とどんな会話をしているのか、どのコミュニティに属しているかなどのさまざまな外部環境と掛け合わせることで、もっと適切なアプローチが生まれるでしょう。例えば、調子が悪かった人が引越しをしたら健康になった、ということがあったとして、今は直感で行動していますが、それがデータで判断できる、ということです。

これに関して面白いと思った例があります。ある有名な心臓外科医の先生に伺ったのですが、何が手術の成功率に影響を及ぼすか、という問いに、本人の体力や技術力、経験値などの要因の他に、“手術の前に患者さんの背中をさする”ということだ、と。それって全く科学的じゃないでしょう。でもそういうことがあるんだと思うんです。ある行動によって、医師がオペ前の気持ちを集中させること、患者さんがこの人になら自分の命を託せると思わせることが成功の要因となりうる。スポーツ選手も同じです。身体データでは何も変化が見られないのに、何かそういう空気が生まれた瞬間にハイパフォーマンスが生まれるということはよくあります。

僕は、人間は切り離された個体として見ておらず、環境にとても影響を受けていると考えています。このことがデータで解明されて、思い込みの壁がひとつずつなくなっていくことが楽しみです。

――「コンディショニング」の考え方はとてもポジティブで主体的な言葉だと思います。為末さんが実践されていた方法を教えてください。

スポーツにおいては、結果への影響は試合内容より、体調の方が大きいんです。だから、スポーツ業界ではピークを持っていくためにコンディショニングという概念が広く使われています。例えば、練習で劇的に疲れると、個人差ありますが48時間や72時間で、疲れる前よりも高い水準に筋肉が戻るという理屈があります。これをトレーニングに当てていくわけです。筋肉の波を逆算しながら数ヶ月前からトレーニングを組み、一番いい波のところに試合を当てる。

簡単に言うと、いつもいい状態をキープしているわけではなくて、疲労と回復をタイミングよくリズムよく繰り返すんですね。これはアスリートだけでなく、どんな人にも実践できることです。朝、いい状態で始まって、疲労して、夜回復する。そのプロセスの中でも1日、週、月単位にゆらぎは生まれる。その結果、疲れが蓄積されたらいつもより休む。疲れるのは悪くなく、疲れ続けるのが悪いんです。これまでは、なんとなく経験と直感で繰り返していることが、今後は脈拍や睡眠の質、血液のCPK値などのデータで視覚化されて見えてくるかもしれません。そうすると、よりコンディショニングを取りやすい。直観によるコンディショニングも10%程度は正しいでしょうが、テクノロジーを使えばさらに精度は高まる。予防医学もコンディショニングの中にあるのかもしれませんね。

>>>後編に続く

女性医師と作る!女医のワークライフ充実応援WEBマガジン⇒『joy.net』
医師の常勤転職なら⇒『Dr.転職なび』

医師のアルバイト探しなら⇒『Dr.アルなび』

文・ふるたゆうこ

Share