スマホでインフルエンザを1分診断――迅速診断チップが検査を変える。

Product

2017.03.17 Fri.  黒沼由紀子

「チップとスマートフォンで、どこでも、だれでも、簡単に」――近い将来、インフルエンザ検査が自宅で手軽に、しかもたったの1分でできるかもしれない。

そんな次世代の診断チップの開発に向け、昨年6月に創業されたデジタルヘルスのスタートアップがナノティス(東京都渋谷区)だ。H27年度のインフルエンザ推定患者数は1,601万人1。国民の約12%がかかっているという社会的な疾病に着目した、画期的な取り組みを紹介する。

大人でも激痛。時間もかかる。それなのに感染初期には判定不能。現状のインフルエンザ迅速診断キットの問題点

突然現れる全身の倦怠感や関節痛、そして高熱。毎年秋から冬にかけて流行するインフルエンザの症状だ。「これはきっとインフルエンザ……」と感じるものの病院に行って検査を受けないと判定はできない。もし陽性と出たならば、数日間以上の自宅療養が必要。流行時期になると学校では学級閉鎖が相次ぎ、職場では人員不足になりかねない。乳幼児が発症するとまれにインフルエンザ脳症の危険性があり、高齢者ならば肺炎などの合併症が危惧される。社会的なインパクトの強い疾病だ。

現在のインフルエンザ検査の主流は、A型・B型・C型ウィルスの判別が可能な「迅速診断キット」。長いめん棒を鼻やのどの奥に入れて粘膜を採取し、ウィルスの有無を判定。こするときの痛みは強く、大人でもつらく、ましてや子どもでは大泣きする子も多い。粘膜採取後も、高熱でぐったりしながら待合室で15分ほど待機してようやく結果を聞くという流れだ。
この検査法の問題点としては

  • 患者側→痛み、検査結果が出るまでの待ち時間
  • 病院側→検査前後における二度の診療、患者の待ち時間による院内の混雑および感染の拡大
  • 双方→感染初期では反応しないことがあり、発症後12~24時間が望ましいとされる

などが挙げられる。高熱が出てすぐに病院に行ったけれど陰性、翌日あらためて通院した、なんて話はちらほら聞かれる。

インフルエンザの自宅検査を可能にする
東京大学の実力派メンバー

ナノティスの開発目標とするコンセプトは、現状の迅速診断キットの問題点を解決してくれる画期的なものだ。想定される使い方もとてもシンプル。

  1. ナノティスに体液(鼻かみ液、将来的には唾液等も想定)をのせ
  2. スマートフォンで撮影すると
  3. 1分以内に診断結果が表示!

チップは使い捨てで衛生的。スマホとチップさえあれば自宅で簡単にインフルエンザを検査できるという仕組みだ。まさに即時検査のイノベーションと言っていいだろう。

技術についてはすでに2016年8月に米国特許仮出願を完了。共同研究のパートナーはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)研究の第一人者、東京大学生産技術研究所の藤田博之研究室と、同じく東京大学大学院工学系研究科、化学生命工学専攻で遺伝子工学やタンパク質工学、酵素工学などの研究をリードする長棟輝行研究室だ。

MEMSは車のエアバッグ制御やスマートフォンに使用されているマイクロサイズの微小電気機械システムだ。バイオ・医療分野においてはDNAやタンパク質を解析するバイオチップや、操作性などに限界があるとされるカテーテルや内視鏡の機能向上など、スマートマイクロセンシングチップとしての応用が期待されている。
特筆すべきは大量生産が可能なこと。微細加工技術やチップ製造プロセスを応用した技術のため安価に量産化でき、常温保管で有効期限も長いため、一般社会への普及が大いに見込まれる。

医療面でのサポートは米国在住の医療機器専門の医師からアドバイスを得るほか、顧問にテルモ株式会社顧問/日本医療機器産業連合会会長の中尾浩治氏を迎えるなど、医療機器開発のエキスパートたちから支援を受けている。

代表取締役CEOの坂下理紗氏の経歴も興味深い。東京大学大学院理学研究科修士課程、東京理科大学理学部物理学科では量子コンピューター構築のための理論研究に従事。大学院修了後は投資銀行業務や外資系金融機関に勤務ののち、コンサルタントとして独立。直近では技術マッチングサービスのスタートアップ、リンカーズ株式会社に参画し、執行役員営業統括本部長を務めた。同社として在日仏商工会議所2016年度フレンチビジネス大賞審査員特別賞を受賞するなど、テクノロジーにもビジネスにもフィールドを持つ国際派だ。

ナノティス代表取締役CEO 坂下理紗氏

このような実力者がそろったスタートアップは頼もしく、第2回バイエル薬品「Grants4Apps注)(2016年12月)では大賞を受賞している。

注)バイエル薬品「Grants4Apps」とは…デジタルヘルス・スタートアップを対象とした助成プログラム。毎回課題を設け、最も優れたソリューションを提案すると助成金が支給される

Share