バイオバンクが拓く未来 Vol.2【がん組織を収集する「つくばヒト組織バイオバンクセンター」】

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2017.03.21 Tue.  木原洋美

血液や細胞といった「生体試料」を収集・保存・管理して、新たな治療法の研究や創薬、再生医療に生かす「バイオバンク」。3回シリーズの1回目となった前回は、神経の治療に向く歯髄細胞を扱う「歯髄細胞バンク」を紹介した。第2回の今回は、がん組織を収集する「つくばヒト組織バイオバンクセンター」の取り組みを紹介する。(HEALTHCARE Biz編集部)

生き残りの決め手は、使いやすさと魅力
連携を強め、総合力で挑む

つくばヒト組織バイオバンクセンター
収集している試料:がん組織 ※4月から健康な人の血液も収集開始

「日本のバイオバンクは淘汰の段階に入っています。生き残るには、使いやすいバイオバンク、研究者や企業が利用したいと思うような魅力的なバイオバンクを運営して行くことが重要だと思います」

と語るのは、『つくばヒト組織バイオバンクセンター』の部長を務める武川(ぶかわ)寛樹氏(筑波大学教授)だ。

『つくばヒト組織バイオバンクセンター』部長 武川寛樹氏(筑波大学教授)

詳細な個人情報が付帯する
ヒト試料の価値は高い

同センターは、2009年から筑波大学附属病院の一部の診療科と連携し、がん患者から手術で摘出したヒト試料(組織、血液など)の収集・保管などを開始。患者からの同意の取り方や企業等への分譲時の手数料を設定し、2013年から製薬会社や大学など外部への提供をスタートさせた。これまでに患者の同意を得て収集した試料は約2,000 症例分でまだバイオバンクとしては少ないが、必要に応じて既往歴、投薬歴、臓器名、疾患名、感染症の有無といった研究に有用かつ豊富な臨床情報の付帯が可能なため、価値は高い。

有効な薬や新しい治療法の開発には、ヒト試料を使った研究が不可欠だ。しかし現在、国内のバイオバンクでは、収集・保管した試料は自施設内での利用、または共同研究として他の施設と利用するという条件がついている場合が多く,試料を研究用に分譲する体制が整っている施設は殆どない
そんななか、「研究者への分譲」というバイオバンク本来の機能に積極的に取り組む同センターは先駆的だ。

収集・保管されているサンプル

総合力と試料の品質担保で
つくばだけの魅力を増強

もっか同センターは急ピッチで、魅力の増強に向けた体制作りに進んでいる。

「筑波大学では、この1月から『プレシジョン・メディスン開発研究センター(※1)』を、4月から『トランスボーダー医学研究センター(※2)』を立ち上げます。これらの施設では、筑波大学だけに配備される最先端の次世代シーケンサー(次世代超HTPヒト全ゲノム配列解析システム)を用いて、全ゲノムの解析をめざします
最先端の病理学研究センター、バイオバンクセンター、次世代シーケンサーの3つが揃う大学はそうはありません。
加えて『つくば予防医学研究センター(※3)』も4月から開設されるので、新たに健康な人の試料の収集を始めることになっています。また将来的には、『TMER(つくば臨床教育・研究センター)(※4)』と連携し、血液の収集・保管も行っていく予定です。
これまで集めてきた病気の方の試料だけでなく、健康な方の試料も蓄えて、それらを次世代シーケンサーで解析したデータを整備すれば、さまざまな精密医療、個別化医療、専制医療に役立てられるはずです」(武川氏)

 さらに、同センターでは、試料となる検体の品質向上と担保にも力を入れている。同センターで実務を担う竹内朋代氏(筑波大学助教)は次のように説明する。

「検体の品質は、手術によって採取された組織が、最終的に冷凍保存されるまでの時間や保存法によって違ってきます。
保存までの時間が長くなってしまうとRNAの分解やDNAの断片化が起きてしまうリスクが高くなるので、日本病理学会では『3時間以内が望ましい』という基準を出していますが、徹底させるのは難しいことなのです。
我々のセンターでは、病理診断や生化学検査の測定値等の臨床データと併せて標本が摘出されてから保管用の冷凍庫に入るまでの時間も記録しており、品質評価の目安にしています」

竹内朋代氏(筑波大学助教)

細かい事柄だが、「生もの」を扱う以上、鮮度の保持は最重要なのだ。

「試料は単に、数が多ければいいというものではありません。希少疾患を扱っているとか、品質の担保がしっかりとれているとかいうことも、重要な要素になってくるでしょう。
その上で、きちっとした管理が出来ていて、分譲する体制が整っているバイオバンクが、残っていくのだと思います」(竹内氏)

分譲開始から2年。
これまで10施設から「試料を使いたい」との申請があり、試料を提供したのは7施設。3施設は審査の結果不適合だった。

問合せの多くは、製薬会社やがんの研究者からだが、なかには「農獣医学の授業で、動物と人の組織の違いを学生に学ばせるために使いたい」とか、「組織を切離するための医療機器の“切れ味”を調べるために使いたい」といった意外な要望もあり、同センターでは、バイオバンクの計り知れない可能性を感じている。

※1 プレシジョン・メディスン開発研究センター
最先端のゲノム解析装置を用いた病気の予防と発症前診断により、個人に最適な治療・投薬につなげることのできる「プレシジョン・メディスン(個別化精密医療)」の推進と実現をめざす。
国内で筑波大学だけが保有する予定の次世代超HTPヒト全ゲノム配列解析システム(次世代シーケンサー)が配備されている。

※2 トランスボーダー医学研究センター
筑波大学医学医療系の研究の強みを最大限に発揮し、世界トップレベルの研究を生み出す共同研究拠点。

※3 つくば予防医学研究センター
筑波大学附属病院が開設した予防医学による健康長寿社会の実現のため、人間ドックを行う施設。4月オープン

※4 TMER(つくば臨床検査教育・研究センター)
筑波大学附属病院と連携し、成人の入院患者(入院を予定者を含む)から研究に使用する試料(血液・尿)・診療情報の保管と研究者への提供について承諾を得、ヒト及びヒト由来の試料を対象として行う共同研究事業を行っている。

最終回となる次回vol.3では、健常者の血液を収集し、未来型医療を築いて東日本大震災被災地の復興に取り組む「東北メディカル・メガバンク機構」の取り組みを紹介する。

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Writer Profile

木原洋美 Hiromi Kihara

医療ジャーナリスト

週刊現代『日本が誇るトップドクターが明かす』(講談社)、ダイヤモンドQ『がん 心臓病 脳卒中 備え方・付き合い方』(ダイヤモンド社)、ドクターズガイド(時事通信社)等、雑誌・ムック本を中心に企画・取材・執筆を多数手掛けている。ダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社のWEB)コラム好評連載中。

 

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