バイオバンクが拓く未来【Vol.3 東北メディカル・メガバンク機構】

Service

2017.03.28 Tue.  木原洋美

提供された血液は迅速に凍結
集中期の仕事量は7倍にも

血液中の細胞をマイナス180℃以下で保存する液体窒素タンク

これまでの取り組みのなかで最も心を砕いたのは、「採取した血液がどんなに大量でも、採血から一定時間内に凍結保存する」ことだった。解析に適した血液試料を確保するにはスピードが大事。血液の成分の中には、室温や冷蔵保存の時間が長いと、分解などにより正確な解析ができないものがあるからだ。

「当機構ではコホート研究の一環として収集された血液や尿などを保存しています。その多くは、市町村が実施する特定健診、いわゆるメタボ検診の時に会場内にブースを設け、『こちらにもどうぞ』という形でお声がけして参加していただいたものですので、特定健診が集中する5-7月には1日に少ない時の7倍に当たる700人分も受け入れることもありました。もちろん、その他の作業と組み合わせて平準化する努力等もしてきましたので、だいぶ改善されましたけどね」(峯岸氏)

バイオバンク室長を務める峯岸直子氏(東北大学教授)

同機構では、試料の品質を落とさないため、受け入れた血液や尿は、可能な限り迅速に(できればその日のうちに) 凍結保存をめざすという原則を、自ら課している。

「夕方運ばれてくる血液や尿などを迅速に処理するために、スタッフの人数やシフトに柔軟性を持たせ、また、疲労によるミスを防止するためにコンピューター管理によるエラーチェックや作業手順の見直しなどの工夫も重ねました」(峯岸氏)

 

試料はバーコード付きチューブに保存される

世界初の1000人単位・高精度の全ゲノム解析が終了
アジア人の貴重な情報として高評価

2013年11月、同機構は日本で初めて1000人分の全ゲノム解析が完了し、現在既に2000人以上の解析データをダウンロードできる形で公開すると共に、さらに数千人規模を目指して解析をすすめている。単独の施設、単一の方式により、遺伝的に均質性の高い集団を、1000人単位で高精度に解析した事例は世界初であり、まったく新しい研究成果が出ることが期待できるという。 また、これらの全ゲノム情報をもとに、日本人独自のゲノム情報に基づいたDNAアレイ(ジャポニカアレイ®)を設計し、より安価にゲノム解析が実施できる解析体制の提供に協力した。

東芝との協力で誕生した日本人ゲノム解析用の「ジャボニカアレイ®」

「論文で発表したのは1000人分のデータですが、解析自体は既に3000人 分終えています。遺伝子多型の頻度情報はWEB上に公開し、ダウンロードできるようになっており、大勢の研究者の方々に使ってもらっています。 バイオバンク事業はヨーロッパが先行しており、ヨーロッパ人のゲノム情報は沢山あります。しかし、アジア人のゲノム情報はまだまだ不足しているので、我々の情報は、非常に貴重性が高いといえます。しかも高品質ということで、世界の研究者から最上位の評価をいた だきました」(長神氏)

ジャポニカアレイ®
東北大学東北メディカル・メガバンク機構が構築した「全ゲノムリファレンスパネル」を基に、COI東北拠点が社会実装した日本人ゲノム解析ツール。日本人に特徴的な塩基配列を持つ約67.5万箇所の一塩基多型(SNP:スニップ※1)を1枚のチップに搭載しており、短時間で日本人のゲノム構造を解析することができる。その解析結果から約30億塩基の全ゲノム構造を疑似的に再構成(インピュテーション※2)できる設計となっている。
※1 ある集団で、ゲノム塩基配列が一塩基のみ異なる多様性があり、その頻度が1%以上のものを一塩基多型(single nucleotide polymorphism: SNP)と呼ぶ。
※2 インピュテーションゲノムリファレンスパネルを基に、遺伝子型の補完を行う処理。

 

超低温保管庫内の作業は完全自動化されている

病人の試料を収集しているバイオバンクや研究者は数多いが、それらを使った解析研究には、同機構にあるような一般人の試料との比較が不可欠であり、東北メディカル・メガバンクのゲノム解析データや試料の必要性は高い。

一方で、コホート調査の性格上、保存した血液の医学的価値は、5年、10年と経った後こそ高くなる。 調査をした時には健康だった人も、年月が経つうちに、癌を始め、さまざまな病気を発症する可能性がある。その時に、時を遡って 血液を調べられるというのは、非常に大事なことだからだ。20年後に、住民全員の血液を時系列で振り返ってみるといった使い方も考えられる。

「そのためにも、数年の間に、収集した試料を使いきってしまうのはいかがなものかという意見もあります」(長神氏)

「1人分の採血量はヤクルト1本分とほぼ同じ33 ml。そのうち10 mlを血液検査に使い、残りをバンクで保存します。その中から、ゲノム解析用のDNAを抽出し、また、いろいろな解析に試料を提供します。
限られた試料ですので、『一度の大量の血液試料を使いたい』という要望に応えることは難しいですが、より多くの研究者に有効に使ってもらうために、試料・情報分譲審査委員会において、公平に科学的・倫理的な審査を行った上で、試料・情報の分譲を行っております」(峯岸氏)

課題は多々ある。しかし、1つはっきりしているのは、バイオバンク事業の将来性の高さだ。バイオバンクは間違いなく、未来の医療を拓く、大きな力に なるだろう。

Writer Profile

木原洋美 Hiromi Kihara

医療ジャーナリスト

週刊現代『日本が誇るトップドクターが明かす』(講談社)、ダイヤモンドQ『がん 心臓病 脳卒中 備え方・付き合い方』(ダイヤモンド社)、ドクターズガイド(時事通信社)等、雑誌・ムック本を中心に企画・取材・執筆を多数手掛けている。ダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社のWEB)コラム好評連載中。

 

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