歯、血液、病変組織、尿も捨てるべからず  ーバイオバンクが拓く未来【Vol.1 歯髄細胞バンク】

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2017.03.14 Tue.  木原洋美

日本人が知っておくべき「バンク」
その凄い将来性に注目

かつて捨てられていたものが、テクノロジーの進化や価値観の変化によって「お宝」になることがある。ダイヤモンドも磨かなければただの石だし、大トロも、おいしさが知られる前は捨てられていた。
同様に今、医療の世界で「お宝」に昇格しつつあるのが、ヒトから採取する、歯、尿、血液、組織、細胞、DNA、RNA、蛋白などの「生体試料」だ。

たとえば、以前は医療廃棄物として捨てられていた、手術で切除されたがんの病巣や抜歯した親知らずが、今では治療・研究に不可欠な存在になっている。

さらに、この新しいお宝を、収集・保存・管理して、治療や研究利用のため、さまざまな機関に分配するのが「バイオバンク」だ。
一般的な認知度はイマイチだが、バイオバンクは凄い将来性を持っている。
その現状と可能性について、特徴的な活動を進めている3つの組織をピックアップし、紹介したい。

抜けた乳歯や親知らずで難病に備える
有料と無料の2通りがあるバンク

歯髄細胞バンク(株式会社セルテクノロジー
収集している試料:歯

歯髄細胞バンク』(東京都)は2008年に日本初の歯髄細胞バンク®として誕生した。きっかけは、バンクを運営する株式会社セルテクノロジーの大友宏一氏(代表取締役)が、

「抜いた(抜けた)乳歯や親知らずの神経(歯髄細胞)に、骨髄細胞や臍帯血に勝るとも劣らない幹細胞がある」という情報を得たことだった。

株式会社セルテクノロジー 代表取締役   大友 宏一氏

「調べたところ、歯髄の幹細胞は非常に元気のいい細胞で、治療に使える応用範囲も広いことが判り、有料でお預かりするバイオバンク事業を、産学連携でスタートさせました。
並行して、難病や救命医療などの再生医療に役立てる目的で、乳歯や親知らずを無料でご寄付いただいて備蓄する、『献歯』のボランティア・プロジェクトも展開しています」(大友氏)

備蓄の方法はマイナス150度以下の液体窒素タンクでの凍結保存。現在同社は、九州大学、岐阜大学、愛知学院大学等との連携で、歯髄のバイオバンク事業を進めている。

幹細胞はいわば「細胞のタネ」。分裂して同じ細胞を作る能力と、別の種類の細胞に分化する能力をもっている。しかし、大人よりも子供のほうが傷の治りが早いことでも分かるように、加齢とともに急激に減少し、かつ衰えてしまうため、再生医療に使用する幹細胞は、できるだけ若く健康な時期の歯髄から採取することが大切だ。ゆえに同社が「献歯」として収集し、備蓄するのは乳歯および20歳以下の親知らずに限られている。

歯髄採取の様子

従来、再生医療のために幹細胞を採取するのは、臍帯血や骨髄からが一般的だったが、骨髄からの採取は身体に対する負担が重く、臍帯血は出産時にしか採取チャンスがないことが課題だった。

しかし、乳歯や親知らずなら、身体への負担は軽く簡単な上に機会も多い。また、歯髄細胞は細胞の増殖能力が高く、歯という硬組織にガードされているので遺伝子に傷がつきにくく、iPS細胞(全身のあらゆる細胞に変化できる万能細胞)を作り出すことも可能だ。

同社では、本人あるいはその子供のために歯髄細胞を保管する場合には、最初の10年間が30万円、11年目以降は12万円の費用で請け負っている。

「保険と一緒ですね。将来、自分の身体になにかあったときのために、自分やお子さんの細胞を備蓄しておくわけです。献血みたいに、歯を寄付してもらう場合は無料。さまざまな創薬・研究に使用することへの同意書をいただきますが、氏名、性別、年齢等の個人情報と細胞の情報は切り離して厳重に管理しています」