歯、血液、病変組織、尿も捨てるべからず  ーバイオバンクが拓く未来【Vol.1 歯髄細胞バンク】

Service

2017.03.14 Tue.  木原洋美

脊髄損傷治療から歯の再生まで
ただし、歯髄細胞には苦手もある

備蓄した歯髄細胞は創薬や治療など、いろいろなことに使われる。

2015年秋には、自分の親知らずの歯髄を使い、31歳の男性が、脊髄損傷の再生医療を受けた。たった2回の注射と点滴で、2億5千万個の幹細胞が体内に移植され、19歳で事故に会って以来、感覚も運動機能も麻痺していた身体に、まず感覚が蘇り、補助器具を付けた状態で立ち上がれるまでに回復した。

「脊髄損傷のほかにも、脳梗塞の後遺症の治療など、病態解明から治療薬の開発まで、さまざまな研究機関が実用化を目指して競い合っています。
最新の研究では、神経を取った後の空洞に、歯髄細胞を注入すると歯が延命できる方法が開発され、実用化が近づいています」

出典:セルテクノロジー社運営の歯髄細胞バンクWEBサイト(http://www.acte-group.com/guide/)より

ちなみに幹細胞は我々の身体に200種類ぐらいあると言われており、同じ再生医療に使うにしても、それぞれ得手不得手がある。
たとえば歯髄細胞は、脳梗塞やアルツハイマー病、脊髄損傷など、神経の治療に向いている。一方、骨髄や臍帯血に含まれる造血幹細胞は血液の癌などには使えるが、神経の治療は不得手とされている。

有料は自家移植、無料は他家移植
その違いは安全性

寄付された細胞を使うのに対して、10年間30万円もの費用を支払い、自分の細胞を使うメリットはどれほどのものなのだろう。

「自分の細胞を使うのは『自家移植』、寄付された細胞を使うのは『他家移植』と呼びます。他家移植でも型さえ合えば、拒絶反応はゼロではありませんが、本人に非常に近い細胞を移植した状態になります」

一方、他家移植でめざすのは、健康保険で使用できる薬づくりだ。そのため日本人なら誰でも、さほど大きくない費用負担で治療に使うことができ、すでに火傷治療用の培養シート(皮膚)は5年も前に保険診療の適用になっている。

「保険が適用されるのは、生死にかかわるような大火傷の場合です。本人の皮膚を培養しての自家移植だと、一ヶ月以上も時間がかかる為、半分近い方が移植する前に亡くなっています。それでは遅いので、最近は、他家細胞製品を使うのがトレンドだと聞いています。
とはいえ、他人の細胞を使うには、未知なる危険性があることは否定しきれません」

収集した歯髄細胞の型は
既に日本人の76%をカバー済み

実は、歯髄細胞にも血液型と同じように「型」がある。
骨髄移植などで「ドナーが見つからない」「拒絶反応が出た」というのは、この型が数万通りもある上に、親兄弟でもなかなか一致していないことによって起きる、HLAと呼ばれる免疫の型だ。

同社はすでに日本人の76%以上をカバーできる型を集め終えている

「76%をカバーするだけの型を集めるには、理論上、10万人のドナーが必要とされています。しかし当社は数千人から見つけ出しました。効率よく集めるノウハウがあるのです。
というのもHLAの型は遺伝子なので、この型は関西エリアに多いとか島根県に多いとかいうことが、収集を進めているうちに徐々に判ってきました。
そこで、全国に1500件ある提携歯科にお願いし、特に欲しい型がありそうなエリアで重点的に集めていただくことで、比較的効率的によく見つけることができています」

現在、第一三共など、複数の製薬会社と契約し、共同研究を進めているという。

「製薬会社としては、全部の疾患に対して提携したいという想いがあるでしょう。しかしそれだと、薬を待ち望んでいる患者さんに届けるのが遅くなってしまうので、1社5疾患ぐらい、類似する領域ごとに提携しています」

※ 次回vol.2では、がん組織を収集する「つくばヒト組織バイオバンクセンター」の取り組みを紹介する。

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Writer Profile

木原洋美 Hiromi Kihara

医療ジャーナリスト

週刊現代『日本が誇るトップドクターが明かす』(講談社)、ダイヤモンドQ『がん 心臓病 脳卒中 備え方・付き合い方』(ダイヤモンド社)、ドクターズガイド(時事通信社)等、雑誌・ムック本を中心に企画・取材・執筆を多数手掛けている。ダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社のWEB)コラム好評連載中。

 

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