精神疾患を“見える化”したい。アプリ開発、AI導入で精神科治療にイノベーションを起こす ひもろぎGROUP理事長 渡部芳德医師

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2017.03.03 Fri.  黒沼由紀子

「精神疾患を数値化したい!」医師の経験値による診断が当たり前な精神科医療の世界に大胆かつ斬新な発想でイノベーションを起こしたのが、ひもろぎGROUP理事長・渡部芳德医師だ。

精神疾患が数値化できれば、他科の医師も含めた医師全体の共通言語ができる。患者さんにとっても精神状態がわかることは治療に有効だ」と指摘する同医師は、日々のココロの変化がわかる無料のスマホアプリ「アン-サポ」を開発。どのような精神状態で毎日を過ごしているか、メンタル面と服薬内容の変遷をグラフとして見られ、患者にとっても医師にとってもうつ病の治療に役立つ手軽なアプリとなっている。さらには、精神科医療×AIの新たな領域へ――。

「アン-サポ」の開発経緯から今後の計画、ストレスチェックの義務化による成果と課題まで、300万人を超える患者数がいるといわれる精神疾患への飽くなき挑戦を追った。

 

ひもろぎGROUP理事長・渡部芳德医師

てんかん発作の“見える化”が原点

もともと“てんかん”の研究をしていたことが、精神疾患の“見える化”へ渡部医師の思いを強くした。患者の様子や会話から心の状態を診断する精神科。医師個人の経験値がモノをいう精神科領域において、てんかんは少し特殊である。発作が脳の神経細胞(ニューロン)に突然発生する激しい電気的な興奮によって起きるため、脳波の波形から脳に異常がないかどうかが判断できるのだ。異常があった場合、外科的に処置すると改善されることが多く見られ、精神科の中でも視覚的にとらえやすく“わかりやすい”分野とされる。

「アメリカ留学時にはノーベル生理学・医学賞受賞の利根川進先生と共同で研究も行いました。てんかん発作の回数が増えると海馬(大脳の一部)繊維が増えることを画像解析し、どのくらい脳が傷ついているかを目に見える形にしました。これが“見える化”にこだわった原点です」(渡部医師 ※以下「」内同様)

帰国後もいち早く光トポグラフィ検査(うつ病を脳内機能の不調によって発症するものととらえ、脳内血中の酸素化ヘモグロビンの推移などを目に見える形で表示する)を導入するなど、うつ症状の定量化によるわかりやすい治療に専念。

精神疾患も定量化し、数値で表せれば、他科の先生とのコミュニケーションツールになるんじゃないかと考えたんです。うつは、最初は精神科ではなく内科など他科にかかる患者さんも多いですからね。
ただ、その当時精神科では、10年前のカルテと現在の症状を比べたくても比較できるような内容ではなかった。そこで、心の状態を数値化してカルテに書き足すことを思いついたんです。そうしたら、治療プロセスも“見える化”できますからね。
もう10年以上、うつと不安症状を評価をスケール化し、数値は全てデータベースに格納しています。精神科医でデータをとるなんて異端でしたが、てんかんでデータをとっていたから僕にとっては自然なことだったんです」

「見える化」の効果を確信。アプリ開発へ歩みを進める

こうして開発されたのが日本人専用の「うつ症状&不安症状評価スケール『HSDS / HSAS』(下図参照)だ。うつ病の評価尺度として世界的に用いられている「ハミルトンうつ評価尺度」を、長年の臨床経験から使いやすく改良。治療がスムーズになったとの声が多く寄せられた。患者さんからも自分の状態の確認ができるようになったととても喜ばれたそうだ。

㊤HSDS(ひもろぎ式うつ尺度)、㊦HSAS(ひもろぎ式不安尺度)の項目一覧

「こんなに喜んでもらえるなら、診療の場で用いるだけでなく、一般の人にも自分の心の状態を知るツールとして使ってもらいたい。そうだ、アプリを開発してみては……と思い至ったんです。
東日本大震災もあったことで、医療データ、診療データの安全な保管についても考えさせられた時期でしたね。万が一の災害時のことを考えると、カルテが紙や院内のサーバーだけに保管されているのは危うい。そう思ってクラウド保管しようと考えました」

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