「アプリが治療する未来」に挑むキュア・アップ ――禁煙、生活習慣病から、肺がん、アトピーまで可能性は無限大

Technology

2017.04.12 Wed.  奥田由意

医薬品、ハードウェアの医療機器による治療に次ぐ第三の選択肢として、スマートフォンのアプリケーションを治療に使うというアイデアから、「薬と同じように、医師がアプリを処方する」ことをビジョンに掲げ設立された「キュア・アップ。創業者は現役の医師である佐竹晃太氏。自身の呼吸器内科としての専門を活かして、まずは禁煙治療に使用できるアプリを開発。現在は8つの医療機関での多施設臨床研究にまで進んでおり、今年中には薬機法承認を目指し治験の実施を予定。将来の保険償還も視野に入れている。

テクノロジーによる新しい医療の実現を目指す異色の「CEO 兼 医師」に、起業の経緯から、アプリ治療の意義、また日本における起業事情など、多岐にわたっておうかがいした。

キュア・アップ(CureApp Inc.)代表取締役・佐竹晃太氏

――「医師が処方する、治療効果を持つアプリ」とはどんなものですか。

患者様の病気を治すために医師が行う行為として、「医薬品を処方する」「医療機器を用いて診断・治療する」、という二つが現在は主流だと思います。そこに第三の新しい方法として、アプリケーション、ソフトウェアを薬と同じように処方することにより、新しい治療効果を生み出せるのではないかと考えました。それが「治療効果を持つアプリ」という意味です。社名も治療をする(Cure)アプリ(App)を産み出すという想いを込めて、キュア・アップとしました。

「アプリで治療」というと、その有効性を疑問に思われるかもしれませんが、ソフトウェアを使った治療に治療効果があるという論文は実は多数存在しており、実際にアメリカ食品医薬品局(FDA)でも承認されています。日本ではまだ未開の分野でしたが「治療の効果がある」という本質的な価値がしっかりとあればサービスとして確立できるはずという目算があり、2014年7月に当社を設立しました。医師でプログラマーでもあるという鈴木晋を共同経営者として誘い、昨年まで3人だった社員は現在30名弱になりました。

プロダクトも慶應義塾大学と共同で禁煙治療アプリを、東京大学と共同でNASH(脂肪肝)治療アプリの二種類を開発中です。

――どういうしくみで治療が行われるのですか。

患者様が定期的に入力する体調や症状を医学的なエビデンスや医師の知見に基づいて構築されたアルゴリズムが解析し、個別最適化した診療アドバイスを行うというものです。同時に医師にも、患者様に応じた治療方法や指導内容のアドバイスを戻します

すなわち、アプリとアルゴリズムが媒介となり、ユーザーと医師両方からデータを入れ両方に返すことで、これまでの治療をさらに効果的に行えるようにしていくのです。

例えば禁煙治療では、ニコチンには強い依存性があるにも関わらず、通院と通院の間の院外・在宅の時間が2週間〜1か月もあり、いわば「治療空白」となる期間が長期間あるわけですが、その間は医療機関は何もフォローできなかったのが現状でした。
また、指導する医師も認定医制度もなく、禁煙外来を担当する医師でも呼吸器が専門でなかったり、不慣れなケースが少なからずあります。「治療アプリ」が院外・在宅の時間も患者様にサポートを行い、医師の側にも個々人に応じた指導ができるようサポートを行うことで、全体として医療の有効性・効率性を高めるのです。

現在8つの医療機関で臨床を行っていて、今夏より秋にかけて薬機法承認を目指した治験を準備中で、保険償還も目指しています

――治療するAIというイメージでしょうか。また、アプリケーションはどういう形になるのでしょうか。

われわれはAIではなく、オートメーションと言っています。AIという言葉を用いていた時期もあるのですが、一種のバズワードのようになって「それはAIなのか?」と思うサービス・プロダクトが増えているようにも感じます。「何をもってAIと言うのか?」ということを自分たちなりにきちんと考えたいと思っています。

アプリケーションで大切なのはUXデザイン(ユーザー体験デザイン)です。その工夫も色々としています。例えば、1つのガイダンスをとっても、患者ごとの特性に併せ、現実に即したものを返すプログラムになるよう意識しています。継続性を喚起することが大事ですから、毎日状況を報告したり、「何かあればアプリに聞いてみよう」と思ってもらえるものでなければなりません。

――ガイダンスを出すためのアルゴリズムをつくるのが大変そうですね。

研究論文として、こういう症状のときにはこういう対処が有効というエビデンスはすでに相当数の蓄積があり、その中から、アルゴリズムに組めるものだけを切り出してプログラミングしています。ただし、医学とプログラム両方の言語を知っていなければ、うまくアルゴリズムとして機能させることはできないので、実装の部分では共同経営者の鈴木のような「医師でありプログラマーでもある」という人間を中心に、その考え方を開発チーム全体で共有できていることが大きな強みだと考えています。

アプリケーションの種類は現在3種類です。慶應との共同開発の禁煙アプリ、東大との共同開発の脂肪肝(NASH)の治療アプリ。この2つは患者と医師双方がデータを入力して、治療を進めます。

また、こうした活動の中で法人の人事部や健康保険組合の方からお声を頂くことがあり、この4月から法人向け「モバイルヘルスプログラム」をリリースしました。法人でも「健康経営」「データヘルス計画」といった従業員の健康により気を配る動きが強くなっていると感じますし、それは本質的にとても良いことだと思いますので、何らかでも貢献できればと考えています。

※第一弾として「ascure(アスキュア)禁煙プログラム」をリリース

以上の3つのプロダクト・サービスが開発中で、順次種類を増やしていきたいのですが、もちろん病気によってアルゴリズムのロジックはちがうので、一つのアプリをそのまま流用できるほど楽ではありません。

――ほかにはどのような病気治療を構想されていますか。

生活習慣病、慢性疾患、糖尿病、高血圧、アルコール依存症、精神疾患、がん、膠原病などの免疫疾患、アレルギー性疾患など、広く応用可能だと考えています。周期があり、適切なタイミングで介入することで治療効果が上がる疾患が有効ですね。

たとえば、アトピーの場合、症状が出初めてから、その日の体調や外部環境次第で増悪・改善を繰り返す周期性があります。ですから毎日皮膚の写真を撮って送ってもらい、それを画像診断して、どのタイミングで薬と塗れば良いか、保湿をしっかりした方がいいか、などに関するガイダンスを発することで、症状を抑えることが可能になります。

また、肺がんに関しては、アプリによる症状申告が抗がん剤の合併症の早期予防に効果があることが実証されています。患者が毎週12の症状についてアプリに入力、アルゴリズムに則して症状の変化を評価して医師にフィードバックするだけで、生存期間が7ヶ月のび、死亡リスクが67.5%も軽減するというデータがあります。

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