「続けるためのヒントは“無意識”の中にある」 予防医学者・石川善樹流「習慣化」の発想法

Opinion

2017.04.26 Wed. 

お腹の脂肪を何とかする。そう決めてジムに入会しても、始めた頃こそ週に3日通うものの、そのうち1日になり、ひと月に一度になり、やがて半年後には幽霊会員に――。ならばテクノロジーに頼ろうと、ダイエットアプリをインストールするも、気づけばその存在すら忘却の彼方。なぜ私たちは健康のための習慣を「良いとわかってはいるけど続けられない」のか? 「続けるためのヒント」を、新鋭の予防医学者として注目される石川善樹氏に尋ねてみた。

ネットの記事を読むだけでは習慣化の法則は見つからない

予防医学研究者の立場からさまざまな提言を行ってきた石川氏。「ダイエットは、意思の力ややる気に頼らない。何かの“ついで”に運動やカロリー制限をすることで“痩せたままでいる習慣”を作ることにカギがある」(『最後のダイエット』)、「1日5分の瞑想が脳のストレスを軽減し、仕事やスポーツのパフォーマンスを劇的に上げる」(『疲れない脳をつくる生活習慣』)など、これまでと違う視点での投げかけに、注目が集まっている。

――著書の中で、「人間が健康になる方法(適度な運動と食事、質の良い睡眠)はローマ時代から知られているのに、人類はいまだにそれを習慣にできない」とおっしゃっていたのが印象的でした。患者さんに健康習慣を提案しても続けてもらえないと嘆くドクターも多いいま、なぜ健康でいるための習慣を続けられないのか、続けるにはどうしたらいいのかを教えてください。

うーん。続けられない理由はいろいろでしょうけど、要は他にやりたいことややらなければならないことがあって、健康を維持することの優先順位が高くないからですよね。

けれどもっと根本的なことを言ってしまえば、どんな分野であっても、習慣を身につける決定的な方法というものは存在しないんです。

――えっ。そうなんですか…。

気軽なソリューションはたくさんあるんですよ。例えば○○ダイエットとか、健康度を測るアプリとか、ウェブ上にもたくさんの情報がありますよね。あるいは誰かが書いた指南本とか。でも、それらは健康のための習慣を身につけるにはどうしたらいいか? という問いに対するコモンメソッド(万人に通じる方法)ではありません。実際に、いまだにそうした方法は発見されていないですよね。だからこうしてみんな、何かないかといつも探している。

――その方法は今後、発見されることはあるのでしょうか。あるいは、石川さんご自身が思いつかれている方法は…。

いや、ないです。

あったとしても、僕が提示したものをみなさんが試すのでは意味がない。ここがすごく重要なんですが、習慣を変えたかったら、自分で考えて何を変えるべきかに気づき、行動しないと、絶対に変わらないんです

人は、自分で発見したことじゃないと、行動を変えるほどには納得できないものなんです。けれど多くの人は、どこからか情報を得てそれで変われると信じている。それではダメなんです。言ってしまえば、健康のための習慣を身につけたいと思ってこのウェブ記事を呼んでいる時点ですでにダメだと、僕は思います。

――手厳しいですね(汗)。でも確かに、何か思いつくとすぐにネットで検索するのが日常になっています。

ウェブや本でヒントを見つけることが悪いとは言いません。でも、大切なのはその前に自分で考えること。自分はこう理解した、ここが大事なんだな、と分かった段階で他の見解を知る。そうじゃないと、発見にならないんですよね。あまりにうかつに答えを求めすぎていると思います。

それにそもそも、考えて気づくことってすごくおもしろい経験じゃないですか。そのプロセスを飛ばしてしまうなんてもったいないと思いませんか?

ものごとの「始め方」と「終わり方」を考える。

――けれど、多くの人は日々の物事に流されて、考える力が弱くなってきています。気づいて考える力を養うには、どうしたらいいんでしょうか。

それもぜひ自分で考えて欲しいのですが(笑)、でもまずは、いま自分がどういう習慣にあるのかを知ることは、ひとつヒントになるのではないでしょうか。それには、「予習・復習」を常に行うことがカギです

――それはどういうことでしょうか?

具体的に言うと、ものごとの「始め方」と「終わり方」が大事なんです。例えば、いまの習慣で、あるいは習慣にできなくて困っていることってありますか?

――(小声で)原稿を早く書かなければならないのに、常に取りかかりが遅いことです…。

なるほど。では、いつも仕事をどういうふうに始めてます? 逆に終わるときは? そして、終わってから仕事を振り返っていますか?

――えっ、いや、まったく。始める時は何となくデスクを整頓して、終わる時は何となく終わって、仕事を振り返ったりは…ほぼしないですね。

でも、仕事が進まなくて困っているんですよね。始め方や終わり方を進歩させていったら、改善すると思いませんか?

――確かにそうですね。でも、一度もそう考えたことはないです。

そこなんです。取りかかり方と終わり方が変わっていないことに気づけて、次はこうしよう、と思えると、次の作業の始め方、終え方が変わってくる。作業の成果が変わり、さらに始め方と終わり方を考えるようになる。それを続けることで、習慣が生まれるわけです。これが、予習・復習の効果です。

でも、こう言うと簡単ですが、これがなかなか難しい。いちいち振り返るのは面倒な作業ですから。非常に高度な方法です。けれどこれを、イチローなどのトップアスリートはつねに繰り返している。自分で振り返るというのが結局、最強の手法なんです

――普段、何気なくしてしまっていることの中身に目を向けることが、ヒントになると。

だからさっきおっしゃっていた、「患者さんが言うことを聞いてくれない」と嘆くお医者さんに尋ねたいです。その前に提案の仕方や伝え方を振り返っていますか、今のやり方を客観的にチェックしていますか? と。無意識に行ってしまっていることの中に、ヒントはあると思います。

――ご自身はいつもどのように仕事を始めて、終わるのですか?

仕事を始める前は必ず30分か1時間ほど、散歩をします。移動しながらいろいろなことを考えて、浮かんだことをメモする。集中できる状況が整うまで、デスクには座りません。仕事中は時々、自分で作ったチェックポイントリストをもとに進め方を検討して、1日の終わりに振り返る。そんな感じです。あくまで僕のやり方ですが。

――研究分野である予防医学で、いま関心を寄せているのはどんなことでしょうか。

いろんなことを考えています。
社会の健康を考えるのが予防医学だと思うんですが、健康とは人がよりよく生きていくことですよね。これだけグローバル化して、デジタル化している社会でよりよく生きることとは…と考えると、視点はおのずと上がる。カバーするべき範囲は広大です。

例えば、いま国の社会保障の設計に参画しているのですが、そこで憲法の三大義務って何なのだろう、と考えたり。一方で、よくプレゼンの前に行う自己紹介って何だろう、人間のキャラクターとは、ということにも関心があります。

――本当に幅広いですね。

マクロにも、ミクロにも関わるのが予防医学です
なかでも最近、ファッションとは何か、ということについてよく考えます。オフィスが渋谷にあるのでいろいろな格好をしている人に遭遇するんですが、なんでこんなパジャマみたいな服を着て歩いているんだろう、とか。

こんなよくわからない布に包まれているけれど、嬉しそうに歩いているのはなぜだろう、と考えると、そこにも「よりよく生きること」を知る手がかりがあるように思うんです。


ふだん当たり前だと思っているものを、興味を持って見つめ、その意味を考える。習慣化、そしてウェル・ビーイングのヒントは、身近なところにある。石川氏が提言する発想法は、これから訪れる寿命100年時代を生き抜くために不可欠な武器になりえる。ツールやtips、便利なアプリやデバイスが溢れるからこそ、人間は思考停止に陥る危険性がある。誰かが何とかしてくれるという他力本願の姿勢、世にあふれる小手先の手法では、太刀打ちできない新時代にどう備えるか。強いてはAIとの共存を視野に入れると、人間が本来持つ思考力をいかに鍛えていくかが、人生の明暗を分けるのかもしれない。

■文 新田草子

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