がん死の恐怖につけこむ「簡易検査ビジネス」の罠に注意

Opinion

2017.04.29 Sat.  木原洋美

信じてはいけない
お手軽遺伝子検査

健康に気を使っているはずの著名人が亡くなったり、がんであることをカミングアウトしたりするたび、「なんとかもっと早く発見できないものか」と誰もが考えるだろう。

実際、毎年人間ドッグを受けていたとしても、がんを見落とされてしまうことは少なくない。

集団検診や人間ドッグの検査内容は、がんを確実に発見できるラインナップにはなっていない場合が多々あるし、画像診断には医師の読影能力の差が大きく反映されるからだ。
そして不安が大きいほど、人は「最先端」という「罠」にはまる。

女優のアンジェリーナ・ジョリーが乳がん予防の目的で乳房切除手術を受けて以来注目を集め、大宣伝されてきたのが民間企業による「遺伝子検査」だ。国が2012年度時点で確認したところでは、国内に87社もの企業がビジネスを展開していた。

それらの検査は、病院など医療機関を通さないことから「DTC」(ダイレクト・トゥー・コンシューマー=消費者直接販売型)の遺伝子検査と呼ばれている。

ネットなどで申し込み、唾液、口腔粘膜、毛髪などを送付すると、ゲノム(全遺伝情報)やその一部を解析し、結果が送られてくるという仕組みだ。

発症前診断や疾患感受性の診断など、予防医療の重要性を謳い、遺伝学的検査をもとに、サプリメントや美容・スキンケア商品、運動プログラム等々をもっともらしく提供する企業も中にはある。

「あくまでも確率による疾病罹患の可能性を予測する検査であり、医療機関が確定診断のために行う検査とは違う。健康増進を目的とする検査商品なので、診断や医療行為には当たらない

と企業側は主張するが、こうした文言は極力小さな文字で、目立たないよう、WEBサイトの片隅に書いてある。

掲載されている説明の大半は、信頼できる医療機関や研究機関が公表した「遺伝子検査」の素晴らしさや「予防医療と早期発見」の重要性に関する記述。それらは一般論であり、その企業が提供する遺伝子検査サービスとはレベルが違う、似て非なるものなのだが、そうした点には一切触れられてはいない。

医師の72.2%が「効果がない」と回答

2016年10月に公表された、10万人以上の医師が参加する医師専用コミュニティサイト「MedPeer(メドピア)」が行ったアンケート調査では、回答を寄せた医師4,018人のうち、63.8%がDTC遺伝子検査について「知らなかった」と答え、 DTC遺伝子検査の健康維持・健康増進への効果については 72.2%が「効果がない」と回答している。

ちなみに「効果がない」 と回答した医師(72.2%)の多くは、「検査についてのエビデンスが不明である」や、「検査結果について医師など専門家がフォローしないと意味がない、もしくは混乱をきたす」という意見だ。

また、日本屈指のがん専門病院のトップは次のように述べている。

「民間企業の検査は7割どころか、まったく役に立たない。
簡単な理由は、たとえば唾液の採取による検査は、一時代昔の方法だということ。遺伝子の核酸配列を見極めるのではなく、1000に一個の変化がどういうパターンで起きているかという、おおざっぱな検査です。
2番目の理由は、民間ベースの検査では、法律上、医療をやってはいけないことになっているので、病気にかかわるデータは出せないということ。せいぜい太り気味の体質ですとか先祖の出身地はアフリカですとか、そんなところです。
一方、我々のような医療機関が実施している遺伝子検査は、がんの特性、家族歴、体質等々の情報を、知り得る限り解析に反映し、医療や研究に活かしています。全然違う。商業ベースのものは、実際の患者さんの病気の、予防診断治療には基本的に役立たないと断言します」

こうした医療サイドの意見が世間に広まった結果だろうか。

去る3月19日に読売新聞に掲載された記事によると、かつて存在した遺伝子検査会社のうち、29社は今年1月までに倒産などで事業から撤退し、10社は所在が不明。全体の4割を超える計39社で「究極の個人情報」と呼ばれる遺伝子情報の管理に懸念が生じているという。

こうした動きを受け、国も、遺伝子検査ビジネスに厳格な法規制がないことを重くみて、業界の実態調査に乗り出している。

将来的にはともかくとして、今のところ、信頼がおける遺伝子検査を受けたいのなら「病院で」が正解。通販サービスはお勧めできない。

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