慶應発医療ビジネス、最優秀賞は―― 慶應大医学部「健康・医療ベンチャー大賞」社会人部門レポート

Opinion

2017.04.15 Sat. 

歯の裏につける「減塩チップ」に、バイオセンサーを内蔵したスマートコンタクトレンズ。体内時計の可視化から、AIによる手術室マネジメントシステム、インスリン療法支援システムまで――

慶應義塾大学医学部が主催する大学発・医療ビジネスコンテスト「健康・医療ベンチャー大賞」では、学生5チーム、社会人5チームの全10チームから多彩なビジネスプランが提案された。

学生チームの最終プレゼンの様子を紹介した前回に続き、今回は社会人チームの最終プレゼンと審査結果をレポートする。

AIによる手術室マネジメントシステムで
医療従事者が専門業務に専念できる環境を

最初に登壇したのは、「AI手術室マネジメントシステム」を開発したチーム「Epigno」。CEOの志賀卓弥氏は現役の麻酔科医。限界にきている医療従事者の過重労働を目の当たりにしてきた。500床クラスの大病院でさえ、手術予定表はいまだにホワイトボードを使用し、医療材料は転写伝票で管理されている。それらが、医師や看護師の業務の合間に行われており、医療行為以外の業務が5割を超えるという医療現場の窮状を訴える。

ホワイトボードでアナログ管理されている手術予定表

AI手術室マネジメントシステムは、AIによって手術にかかる医療従事者や医療材料、医療機器の割当を自動で最適化し、リアルタイムで手術室予約から患者退室までの手術フローを可視化するというもの。国内1800病院、アメリカ5700病院を対象とし、逐次新たなデータベースを追加することで情報価値を高め、機械学習を繰り返すことで、現場のニーズに即した最適化を図り、メンテナンスとコンサルタントのサービスを提供する。

「手術室は病院にとっての生命線であり、手術室を効率よく運営することが求められている。AI手術室マネジメントシステムにより、個々の医療従事者が最大のパフォーマンスを発揮できる環境をつくり生産性を向上させるとともに、多種多様で限りある医療資源の効率的な運用を実現し、病院の収益を改善したい。」(志賀氏)

現在、すでに2施設と契約しており、データベースを構築、分析・解析し、その結果をもとにフィードバックを実施している。「最終的には、外来業務の最適化に参入し、病院全体のマネジメントシステムとして活用することを考えている。こうして医療従事者が働きやすい環境を提示し、日本の医療の質に貢献したい」(志賀氏)と抱負を語った。

審査員からは、医療従事者の労働と資源のマネジメントを行うことと事故が少ない良い手術との関係をどう捉えているか、同様のシステムが現時点でない理由をどう分析しているかといった質問が飛んだ。

IoTを活用したインスリン療法支援システムで
糖尿病患者のアドヒアランスを向上させる

チーム「アラジンケア」は「IoTを活用したインスリン療法によるアドヒアランス向上支援システム」を提案した。対象となるのは、ペン型インスリン注射器を使用している在宅の糖尿病患者。利用者の自宅に廃棄容器一体型の通信デバイスを設置し、患者は廃棄する注射針を専用容器に入れる。サービス提供者はこの専用容器の重量変化を通信デバイスから受信することで、アドヒアランスを遠隔で管理することができる。不良と判断されれば、直接連絡するなどして介入するというものだ。またこの情報は医療機関と共有し、支援する。

サービスのエコシステムは、患者へのインセンティブ付与で、注射針の安全回収が実現されることで可能となる。回収は東京都薬剤師会が実施する回収事業などの既存プロセスを活用することを想定。患者には回収量に応じたインセンティブとして、ポイント還元やキャッシュバックなどを考えている。

代表の棚川司氏は、糖尿病の治療中断予備軍10万人を5年で会員にしたいと言う。「糖尿病腎症への進行を約2割回避できるとして、糖尿病の進行により必要になる透析治療費、年間約1100億円の医療費が削減できるだろう」と自信を見せた。

審査員からは、現状の在宅糖尿病患者の抱える課題をどう捉えているか、機器の保守の仕組み、糖尿病以外の疾患への発展性などが指摘された。

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