慶應義塾大学医学部の「健康・医療ベンチャー大賞」学生部門 第1回最優秀賞に輝いたのは

Opinion

2017.04.11 Tue. 

2017年3月26日、慶應義塾大学医学部が主催する日本で初めての大学発・医療ビジネスコンテスト「健康・医療ベンチャー大賞」決勝大会が開かれた。

慶應義塾大学医学部は、大学発の医療・健康スタートアップの促進を目指し、2015年11月に「知財・産業連携タスクフォース」を設置。教育・研究の成果による産業創成目指し、慶應義塾大学発・健康医療分野のベンチャー企業を100社設立することを目標にしている。

その取り組みの活性化の柱となることを期待して設立されたのが、ビジネスコンテスト「健康・医療ベンチャー大賞」だ。社会人部門100万円、学生部門30万円の賞金を出し、起業支援などの副賞も与えられる。診療に限局せず、医療・健康に貢献するプランを広く募集。70組を超えるビジネスプランの応募があった中から、この日は最終選考に残った学生、社会人部門それぞれ上位5チームが最終プレゼンテーションに臨んだ。まずは、学生チームのプレゼンを紹介していく。

口腔状態を改善し全身を健康に
企業向け訪問予防歯科サービス「DenQ」

学生部門ファイナリスト、最初のプレゼンテーションは「訪問予防歯科DEN Q」。チーム「タイマッサージ」の田谷元氏によると、口腔と全身の健康状態は深く関連しており、歯周病があると血糖値、循環器疾患や介護リスクなどが高まるというデータがある。ところが、「日本は予防歯科後進国。多くの患者は状態が悪化してから歯科を受診するという現状がある」。こうした現状を打破し、日本人の口腔環境への意識を高めるために予防歯科に取り組むもので、企業社員を対象として歯科衛生士による訪問式の予防歯科診療を行う。

サービス内容は、年に3回から4回、20分から25分程度のブラッシング指導と歯石除去、フッ素塗布による虫歯予防を訪問で行うというもの。サービスの導入により、企業社員の口腔衛生が改善され、全身の健康に貢献。歯科医療費はもちろん、以下医療費をも抑制する効果が期待できる。さらに健康保険組合の診療費を抑制するとともに、企業イメージの向上にも寄与する。

当初は企業の個々の従業員による支払いを想定しており、ここで診療の効率化やマーケティング材料を獲得し、軌道化すれば5000人規模の企業と契約したいとする。「健康保険組合の診療費を抑制できることを訴求ポイントにして、企業の人事担当部署や健康組合にアプローチし市場を開拓していきたい」(田谷氏)。将来的には、研究機関や行政と協力。事業により得たデータを解析・研究し、予防歯科の効果を検証するとともに予防歯科を推進する政策の策定にも貢献することを目指す。

審査員からは、人事や健保組合の説得手法、医療費抑制の試算状況などが質問された。

農作物栽培による認知症ケアサービス

続いて登壇したのは、チーム「イノベーティブ・ヘルス・デザイン」。「認知症の介護環境はもっと良くできる」という思いで、「野菜栽培キットによる認知症ケアサービスD-mark project」を提案した。

日本の認知症人口は年々増加しており、2020年には約300万人に達すると予想されている。経済的損失も大きく、インフォーマルケアの担い手である家族負担も大きい。「その原因の大きなひとつが不適切なケアにある」とイノベーティブ・ヘルス・デザインの今給黎薫弘氏は指摘。「認知症患者の問題行動が介護者の負担となっている。十分なケアが受けられていない当事者がのびのびと生活するためには、在宅環境に適合することがもっとも望ましい」。今給黎氏は認知症ケアサービスに求められているのは、①安価で毎日可能なサービス、②症状の改善、予防効果が期待できる高品質なケア、③医療、介護保険に依属しないサービスだと分析。これらをすべて満たすサービが、「室内栽培キットによる園芸療法」だとする。

園芸療法とは、生活意欲の向上、問題行動症状を抑え、認知機能を回復させる効果があるとされている認知症ケアである。室内栽培キットは、施設や家庭内で実践する。毎月ノートやケアブックが付属した栽培キットが届くので、専門知識がなくても当事者の見当識を向上させ、記憶を呼び起こすなどの本格的なケアができる。「悪天候でもシンプルな繰り返し作業ができるので認知症当事者が受け入れやすい。また植物や野菜が成長し、実を結ぶという成功体験が達成感をもたらし、認知症状を抑制する効果がもたらされる」。

対象者は、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の人を含めておよそ862万人を見込んでおり、川崎市や渋谷区の支援を受け、介護事業所に販売して実績を積む予定だ。長期的には、認知症のリスク因子である「うつ」をサービス対象に加え、ケア施設の運営にも参入していきたいとする。

審査員からは、3,980円という価格の算出根拠、原資はどこになるか、ケア施設などでの調査の有無などが問われた。

「販売価格の妥当性や施設のコスト問題、市販の種からの栽培との差別化などの課題に対しては、初年度に自治体からのサポートを見込み、ケアの効果をアピールしながら価格を見極めていきたい」(今給黎氏)。

“おもてなし医療”を実現する
訪日外国人向けの遠隔医療相談サービス「Doc Travel」

訪日外国人に向けて「おもてなし医療」を提案したのは、チーム「Doc Travel」。東京でオリンピックが開催される2020年には海外からの訪問客が4千万人を突破すると予想されている。「『おもてなし大国』を標榜するからには、来日する外国人に安全や医療までを提供することが求められている」とDoc Travelの大木将平氏。外国人を対象に調査を行い、日本で外国人医療に当たっている医師の意見も聞いたところ、いくつかの問題が見えてきた。それが①言語の違い、②医療制度の不透明性、③情報の不足だ。そこで生み出したのが、「他言語診療能力のある日本人医師と外国人患者をつなげる遠隔医療相談サービス」だ。

このサービスは、ワンタッチで言語能力の高い医師につなげるオンデマンドな遠隔医療相談で、病院治療が必要な患者には紹介状を作成し、受け入れ可能な病院を紹介するというもの。「患者の要望に応じて、Doc Travelアプリが最適な医師を自動的に選択、患者とつなげ、遠隔相談を実施する」。いつでもどこでも相談できる柔軟な相談体系が最大の提供価値だ。

ただ診察は医療行為に当たるので、国内では要件が厳しい。「現時点でのサービスとしては、医師の見解を伝えることと、緊急度を図ること。発熱など投薬が必要なときには、市販薬の名前を紹介する。いずれ遠隔医療の要件が緩和されれば処方箋を電子化して送信、薬局で処方できるところまで実現したい」。

まずは欧米やその他の英語圏の来日外国人を対象とし、250人の医師配置を目指す。将来的には治療まで一貫して行うことを目標とし、2020年までにはクリニックを設立する計画だ。「最高の医療を世界中の人に届けたい」と締めくくった。

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