テクノロジーによる介護イノベーションの実践者はかく語りき。AGING2.0 TOKYOパネルディスカッション

Opinion

2017.05.11 Thu. 

テクノロジーによる介護イノベーションは、どう生み出されるのか。そして、いかにグローバル展開を目指すのか――。

“世界に誇れる豊かな長寿国日本”を実現するスタートアップビジネスコンテスト「AGING2.0 TOKYO GLOBAL STARTUP SEARCH」(2017年4月26日、主催:AGING2.0、デジタルヘルスコネクト、インフォコム株式会社、SOMPOホールディングス株式会社、SOMPOケア株式会社)において、「高齢者向けサービスの起業と課題」と題したパネルディスカッションが行われた。

パネリストは、ベッド見守りセンサー・人感センサーを使ってベッド上の在・不在を検知し、その情報を介護スタッフのスマホに通知するシステムを提供する株式会社Z-Works代表取締役の小川誠氏、排せつ予知ウェアラブルを介護現場に提供するトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社代表取締役の中西敦士氏。モデレーターは阿久津靖子氏(株式会社MTヘルスケアデザイン研究所代表取締役・所長)が務めた。

小川氏は2015年、中西氏は2016年に、それぞれ同コンテストの最優秀賞を受賞している。

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―― お二人の起業のきっかけを教えてください。

小川(敬称略、以下同) 大学卒業後、シリコンバレーの海外半導体メーカーで働いていました。その中で、日本のモノづくりメーカーがサービスを生み出すことができず、衰退する現状を目の当たりにしました。そこでメーカーとのつながりを生かして、新しいサービスや新規事業を生み出せないかと考えました。当初はコンサルタントをやりたいと思ったのですが、コンサルタントだけでは何も生まれない。そこで、自分の祖母の介護の実体験を生かし、クラウドエンジニアとしてセンサーを束ねてスマートホームセキュリティに取り組むことにしました。

中西 私は2013年のアメリカ留学中、路上で大量のウンコを漏らしたのがきっかけです(会場笑)。なぜ人はウンコをするのだろうかと考えました。そして排せつを予測できればいいのではないかということに思い当たり、開発に着手しました。

―― 事業をスタートしてみて、想像以上に大変だったのはどんなことでしたか。

小川 想像以上というか、想像どおり大変でしたね。なかでも資金調達には苦労しました。ただ、立ち上げ時には大手企業が一緒にやろうと手を差し伸べてくれました。この数年でそういったオープンイノベーションの中でメンターとしてサポートいただける事例が増えてきていると思います。その意味では、資金調達は大変だけど、立ち上げは楽になっているとも感じています。

中西 私の場合は、「ウンコを予測する機械なんて誰が買うんだ」とさんざんツメられました。自分なら買うのにな、と思っていましたが。投資家を説得すること、交渉することは大変でした。

―― それらの困難を乗り越えた思いとは。

中西 「もう漏らしたくない」という一念で頑張りました(笑)。

小川 私は、情熱を失わないことだけを考えていました。「起業するからには、情熱を持て。投資家は、情熱のある人に投資をするのだから」とアドバイスを受けていましたので。

株式会社Z-Works代表取締役の小川誠氏

―― サービスが市場に出てからの販売やサービス開発はどのように進めたのですか。

中西 (排泄予知ウェアラブルデバイス「DFree」は)SOMPOケア様に使ってもらっています。当初から、実際に使っていただいて効果を感じてもらうことが大前提だと思っていたので、開発段階から現場を大事にして、現場からの声を吸い上げ、アプリやハードウェアに反映させることを心がけました。

小川 ユーザーは「サービスを導入するとどうなるのか。より良くなるのか」ということに関心を持っているので、必ずその点を説明するように心がけました。中でも、スタッフのストレスが軽減できることや、24時間起こりうる事故例を中心にアピールしました。
介護現場は、省力化不可能なくらい頑張ってしまっている。そのため、逆に今の作業フローを破たんさせてしまわないことにも注力しました。現場からのフィードバックとして興味深かったのは、ベッドセンサーによりベッド上の在不在が確認できたことで、利用者の方の睡眠時間が数字として把握できるようになったということ。睡眠時間から根拠あるケアプランが作れるようになった、眠剤の削減につながるなどの声をいただきました。

―― 介護業界はIT化がむずかしいと思います。これから、どういったビジネス展開を考えていますか。

中西 介護事業は介護保険に頼らざるを得ないのが現状ですが、それでもメリットのある商品をつくっていきたいと考えています。現在、施設より在宅の方が介護される人の生活の質が担保されていない状況にあります。それをどう改善できるかを念頭に、訪問介護事業所や自治体、通信インフラなどとともに、QOLを向上させるサービスシステムをつくっていきたいですね。

トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社の中西敦士氏

小川 我々は開発会社なので、ユーザーと直接向き合えるものではなく、BtoB、あるいはBtoBtoCになりますが、介護現場は施設から在宅へという流れは間違いなくあります。同時に、介護離職者が年間10万人という現状もある。当社の技術だけでなく、テクノロジーを結集して問題を解決していかなければならないと思っています。今考えているのは、介護予防。調剤薬局さんはアクティブシニアに向けた健康相談も手掛けています。そうした薬局向けに、処方箋をもらう前の段階へのアプローチもできないかと思っています。

―― サンフランシスコの世界大会はどうでしたか? 海外展開で世界に打って出るためのヒントなど得られましたか?

中西 AGING2.0のピッチイベントに行ったとき、サンフランシスコでトガっているベンチャー企業に注目していましたが、特に目新しいものもない。日本にもチャンスは大いにあると感じています。

小川 確かにサンフランシスコはイノベーションの中心になっています。私もいい刺激は受けましたが、恐れるに足りないとも思っています。突っ込んだものを目指すとFDAの承認が得られないから・・・という点もあるためかと思いますが。

―― アジア市場についてはどうですか。

中西 香港の介護施設を見学しましたが、かつての日本のように拘束が当たり前だという現状に衝撃を受けました。トイレ記録もつけていない。アジアで進んでいるといわれる地域でもそのレベルなんです。まだ日本が進出する余地は十分あります

小川 我々はタイ政府に招かれました。彼らは、今後アジアを中心に少子高齢化が日本以上に進むと危機感を持っています。タイだけでなくベトナムやシンガポールから契約をいただいており、日本やアメリカよりも、アジアでの事業展開は速く、そして楽にできるのではないかと予想しています。

―― 今日はどうもありがとうございました。

■文 坂口鈴香

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