健康経営、データヘルス計画における「モバイルヘルス」の可能性

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2017.05.18 Thu.  HEALTHCARE Biz編集部

近年、企業や健康保険組合で注目を浴びる「健康経営」や「データヘルス計画」。この新しいテーマにモバイルヘルスの活用はどのような可能性を秘めているのか――。

「産業保健近未来図」をテーマに開かれた日本産業衛生学会(2017年5月11日~13日)にて、呼吸器内科医であり、「治療アプリ」を開発する株式会社キュア・アップ代表取締役・佐竹晃太氏が「産業保健領域における医療・健康用スマートフォンアプリ活用の潮流」と題したランチョンセミナーを行った。

会場に集まったのは、企業の「健康経営」を担う当事者――産業医や保健師、人事担当者、健保組合担当者たち――。立ち見が出るほどの盛況ぶりに、関心の高さがうかがえた。

立ち見が出るほどの盛況ぶりで、会場は熱気に包まれていた。

蓄積され続けるモバイルヘルスのエビデンス
FDA承認、保険承認を受けた治療アプリも――

スマートフォンなどの携帯端末を利用し、医療行為や診療のサポートを行うモバイルヘルス。「アプリで治療」というと、その効果に疑心暗鬼になるが、2000年以降臨床研究の論文も飛躍的に増加、2010年以降は大規模臨床試験によるエビデンスも蓄積されているという。

たとえば、世界五大医学雑誌の1つである「Lancet」では、2011年に英国で5,000人以上を対象にしたモバイルによる禁煙指導調査についての掲載がある。

「モバイルでの指導があった人となかった人とでは、開始後1か月の時点で禁煙成功率に倍以上の差が生まれたとの報告がされている」(佐竹氏、以下「 」内同様)

他にも、糖尿病患者へのアプリでの生活習慣指導でHbA1cが改善した例、服薬管理デバイスの利用で高血圧患者のアドヒアランスが向上された例、肺がん患者のアプリによる症状申告をアルゴリズム解析し、抗がん剤による合併症リスクを早期アラートすることで、生存期間7か月も伸びた例など多数の海外事例が共有された。

モバイルヘルスの有効性を示すエビデンスの蓄積により、アメリカではアメリカ食品医薬品局(FDA)の承認を受けた治療アプリも優に100を超える。

「たとえば、糖尿病患者に生活習慣指導を行う『Welldoc』は、FDA承認を得ただけでなく、大手保険会社による保険適用も受けている。」

医薬品を処方され、医療機器で診断・治療される従来の医療から、第三の医療手法として「アプリケーション」「ソフトウェア」が着実に頭角を現しつつある。

「薬理学的な視点から開発された医薬品、解剖学的な視点から開発された医療機器に加え、行動科学の視点から開発された治療アプリが、薬と同じように処方される未来はそう遠くはないのではないでしょうか。」

キュア・アップ(CureApp Inc.)代表取締役・佐竹晃太氏

日本でも広がるソフトウェア治療の臨床研究

日本とて、モバイルヘルスにおいてアメリカの後塵を拝しているわけではない。ソフトウェア治療の臨床研究事例は、着々と進んでいる。たとえば、次のような例が挙げられる。

① ニコチン依存症治療アプリ(慶應義塾大学医学部 呼吸器内科)
② 糖尿病管理アプリ(東京大学医学部 健康空間情報学講座)
③ NASH(非アルコール性脂肪肝炎)治療アプリ(東京大学医学部附属病院消化器内科)
④ うつ病治療アプリ(京都大学医学研究科/国立精神・神経医療センター)
⑤ 不眠症治療アプリ(晴和病院/くわみず病院)

佐竹氏が代表取締役を務めるキュア・アップは、上記①③を共同開発している。ニコチン依存症治療アプリについては、「臨床研究段階なので、エビデンスは公表していませんが、非常にいい結果が出ている。今年に中間報告、来年に最終報告を行われる予定だ」と胸を張る。

ニコチン依存症治療アプリ開発の背景と概要はこうだ。

「ニコチンがもたらす依存には、身体的依存と心理的依存を取り除く必要がある。現在の禁煙外来において、身体的依存についてはチャンピックスやニコチンパッチなどの医薬品で対応できる。しかし、心理的な依存については、十分な治療介入がされていない。通院と通院の間の空白期間が2週間〜1か月もあるが、その期間は医療機関側ではほとんどフォローできず、患者様は孤独な戦いを強いられている。それゆえ脱落も多く、3ヶ月5回の通院を継続できる患者は3割にとどまっている。

そうした治療の空白期間による脱落を埋め、治療のモチベーションを持続させるためにアプリが日々、患者様の状況に応じてアドバイス、モチベートを行うシステムを作った。患者様は日々体調や症状、吸いたい気持ちを入力。それを医学的なエビデンスに基づいて構築されたアルゴリズムが解析し、個別最適化した診療アドバイスを返す。LINEのような親しみやすいUI(ユーザーインターフェース)のチャットを軸として、心理療法を踏まえたコミュニケーション設計がなされており、患者様の気持ちや直面する困難に寄り添ったサポートを実現させている」。
関連記事「「アプリが治療する未来」に挑むキュア・アップ ――禁煙、生活習慣病から、肺がん、アトピーまで可能性は無限大」

現在の対面での保険診療による禁煙外来では、3か月の治療終了後の再喫煙にも課題があると指摘する佐竹氏。

「治療中は薬で喫煙欲求を抑えられても、グラフにあるように治療「終了」とされている3ヶ月後の次の3か月で、がくんと禁煙継続率が下がる。その結果、禁煙開始6ヶ月後の結果を見ると、薬剤の治療成績はプラセボと比較してわずか9%ほどしか差がない結果となってしまっている。麻薬に匹敵すると言われるニコチンの依存から脱却するには、3ヶ月より長くフォローできる施策が必要だ」

心理的依存の脱却には長期間にわたる継続的なサポート、モチベートが欠かせないが、それを人力で行おうとすれば人件費、ひいては医療コスト増が避けられない。その部分をテクノロジーが担うことで、医療コストの増加を抑えながら高い治療効果を持続できることになる。

法人向け禁煙プログラムもスタート
健保組合や企業での導入事例が増加中

「モバイルヘルスは、医療機関における臨床試験も始まってエビデンスも固まってきている。今後は、医療機関だけでなく、健康経営やデータヘルス計画といった意識の高まりを受けて、企業や健康保険組合でも広がっていくだろう。」と予測する佐竹氏。キュア・アップにおいても、今年4月から法人向け「モバイルヘルスプログラム」第一弾として「ascure(アスキュア)禁煙プログラム」の提供を開始したところだ。慶應義塾大学と共同開発した「ニコチン依存症治療アプリ」の知見をもとに法人向けに開発した専用アプリ×禁煙指導員×医薬品の多面的なサポートを“完全オンライン ×6ヶ月サポート”で提供することで禁煙成功率の向上を目指す。現状の禁煙外来が持つ課題点は、ascure(アスキュア)で次のように解消されていく。

1 通院の手間、心理的ハードルによる「始めづらさ・続けづらさ」を完全オンラインで解消

禁煙は年間600万人がチャレンジしているものの、禁煙外来を利用しているのはわずか1割にも満たないと言われている。その要因として、「通院が面倒」との声や、「医者・病院に行きたくない」という声は根深い。

株式会社キュア・アップによる「禁煙挑戦者と禁煙希望者を対象にした禁煙治療実態調査」(2016年6月)

ascure(アスキュア)では、アプリはもちろん指導員からの指導もテレビ電話によるオンラインで初回から最後まで受けられるため、通院の負担を解消することができる。また、夜20時まで、土曜日も受付けているため日中は忙しい喫煙者でも続けやすい環境を提供。例えば、ランチ時間や勤務後、休日でも無理なく時間を作れる。
また、企業の健康支援プログラムのため医者・病院にかかる必要がなく、その点からも禁煙外来に踏み切れない層の心理的なハードルの払拭に資する。

2 在宅・院外など、指導以外の時間もアプリがフォロー

従来の禁煙外来ではおおよそ月1回の外来時以外は、孤独な戦いを強いられてきたが、実際はこの期間が非常に長く苦しいものになる。アプリがそうした在宅・院外の時間にもサポートを行うことで、隙間なく禁煙を支援する体制を構築する。

3 依存症克服には短い3か月の期間を6か月に延長

3ヶ月の禁煙外来終了後、次の3か月での禁煙失敗率の高さは先述した通り。そこで、半年間に渡って継続的なフォローを続けることで、持続できる禁煙成功をサポートする。

会場からの導入事例を尋ねる質問には、「4月にリリースしたが、すでに3つの法人で導入されている。喫煙は成人の一番の死亡因子とされ、禁煙による医療費削減を示すデータは多い。そのため、健保組合や健康経営に向けた人事予算の中から費用提供をいただいている。2014年の薬事法改正により、日本においても医療用ソフトウェアの普及が見込まれる。産業保健領域でも、アプリ・ソフトウェアの活用が拡大していくだろう」と締めくくった。

参加した人事部や健保組合担当者からは、「禁煙外来・禁煙プログラムへの参加者は年々減っており打開策を探していた。アプリという新しい切り口は非常に魅力的」「3ヶ月の後、という課題感は持っていたが費用・人的リソースの制約で難しいと思っていた。そこをテクノロジーでフォローしていくというアプローチは納得性がある」といった声が寄せられ、社員の健康増進に向けてのモバイルヘルス活用への期待値の高さをうかがわせた。

ascure(アスキュア)禁煙プログラム
https://www.ascure.technology/

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