残業時間の“青天井”はもう許されない。 健康経営へのスピードシフトが 今、求められる理由

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2017.05.19 Fri.  奥田由意

産業医が有効活用されていない現状
小規模事業所は蚊帳の外……。

舘野氏は続いて、産業医の必要性に言及。「厚労省が掲げる長時間労働解消の方策として、トップの意識改革、36協定の適正な締結、会社側の労働時間の適正な把握などに加えて産業医の選任も挙げられている」。

産業医は労働安全衛生法によって、50人以上の事業所に選任が義務付けられており、健康診断と診断後の措置、月100時間以上の時間外長時間労働をしている社員の面談、ストレスチェックの実施と面接などがその主な任務だ。

ただ、現状では、産業医を選任している事業所は全体で87%、とくに、事業所の大部分を閉める50人から100人未満の中小企業で産業医を選任しているところは80.9%にとどまっているという。50人未満の事業所ばかり抱え、社員数自体の合計は400名というところもあったり、名義貸しや、活動実態のない産業医がそのうちのにのぼっているとも推計されているというから驚きだ。

しかしながら、長時間労働によるリスク低減のためには、産業医の活用が重要であると舘野氏は力説。活用のため必須となるポイントは次の通りだ。

  1. 産業医の選任
    「産業保険、労働者の健康管理や労災のリスクについて勉強している産業医を選任し、業務内容を明確した契約書をつくること」
  2. 長時間労働者の面談を適正に行う
    「現在月100時間を超える時間外長時間労働者には面談が義務付けられているが、これを努力義務と規定されている45時間から80時間を超えた場合に設定して実施するのが望ましい」
  3. 健康診断結果の事後措置を適正に行う
    「長時間労働と生活習慣病が重なると過労死リスクが高まるため、健康診断結果の適正な措置は急務」
  4. ストレスチェックと、その面接指導を適正に行う
    「高ストレスのかかっている人が長時間労働をすると精神疾患リスクが高まる。専門外なのでやりたくないという産業医もいるようだが、実際には、医師であれば対応可能な枠組みでつくられており、産業医が取り組むべき職務」
  5. 衛生委員会の開催
    「この場で長時間労働の改善策について審議し、事業者に報告するのが望ましい」
  6. 50人未満の事業所を含めて対応する体制づくり
    「産業医の選任義務がない小規模事業所でも長時間労働の面談、健康診断の事後措置は実施義務があるため、どのように対応するかを考える必要がある」

長時間労働によるリスクの削減という面だけでなく、産業医を選任することのメリットは数多くある。

  •  労働安全衛生法違反にならない
  •  労働者の健康管理ができる
  •  長時間労働者に面接指導することで、健康障害を予防できる
  •  衛生委員会で専門家の意見を採り入れ、労働者の心身の健康を守る施策を行える
  •  ストレスチェックの実施、面接指導に対応できる
  •  職場での作業環境、作業方法などを医学的な視点でのアドバイスを受けられる

舘野氏によると、「衛生委員会は一方的な通知で終わることが多いが、産業医に参加してもらえば、冬場にノロウィルスが流行する前に対策を強化すべきなど時期に応じたアドバイスを得られる」という。

前述のとおり、小規模の事業所などでは産業医の選任義務はないが、長時間労働面談などは行う必要があり、どのような対策をすべきか経営者としては頭を悩ませるところだろう。舘野氏はケースごとにいくつかの解決事例を紹介した。

ケース1:50人未満の事業所を全国に広く持つ会社
⇒エリアごとに事業所をまとめたうえで、産業医を選任し、健康診断結果と長時間労働の面接指導を実施
ケース2:50人未満のグループ企業
⇒長時間労働面談対象者をまとめ、一箇所に集める形で面談を実施
ケース3:地方の小規模事業所
⇒長時間労働者や高ストレス面接指導は、産業医紹介サービスと提携したクリニックで実施
ケース4:現産業医がメンタルヘルスを担えない
⇒現産業医とは別に、ストレスチェックを実施し、高ストレス者面接指導、長時間労働面接指導をするメンタルヘルスに強い産業医を選任

長時間労働の是正、働き方改革の潮流のなかで、産業医の役割やその選任の重要性は増す一方だ。「とくに月60時間以上の時間外労働はさまざまなリスクを内包しており、早急な対策が必要」だという。産業医選任の義務がない小規模事業所でも、長時間労働面談、高ストレス者の面談、健康診断後の措置として、産業医の面談のしくみを整える必要があり、また、労災や労務リスクを適正に判断できる産業医であることも重要だ。「働き方改革の掛け声通りの時間外労働の削減には時間がかかるが、その間にもできることはある。長時間労働の実態を正しく把握し、長時間労働者には産業医の面談をするなどはすぐに着手できるはず」と舘野氏。

上に挙げた事例なども参考にして、正しい認識に立って長時間労働の是正、労働者の保健について、いまできることから始めてほしい。

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舘野聡子 Satoko Tateno

オフィスブリーゼ代表

特定社会保険労務士、シニア産業カウンセラー
法学部法律学科で労働法専攻、大手流通企業、社労士事務所勤務後、ハラスメント・メンタルヘルス対策を行っているEAP企業にカウンセラーとして勤務。その後、産業医の元でカウンセラーとして職場のメンタルヘルス対応を学び現職。これまでに延べ1000人の相談にカウンセラーとして対応する。企業のメンタルヘルス対応、産業医との連携、社内体制づくりのコンサルティングなどを中心に活動

Writer Profile

奥田由意 Okuda Yui

フリーランスライター

ビジネス書の出版社ダイヤモンド社勤務ののち独立。ダイヤモンド社出版物やダイヤモンド・オンライン、プレジデント社の「プレジデント・ウーマン」などで記事執筆。誠文堂新光社のデザイン雑誌「アイデア」などで翻訳も手がける。

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