8時間眠ればいいわけじゃない! 体内時計を“見える化”する睡眠コーチングサービス「O:(オー)」

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2017.05.26 Fri.  黒沼由紀子

国内で約2000万人が悩むといわれる不眠。5人に1人は慢性的な不眠に悩むという「国民病」に「体内時計」という他にはない切り口で挑むのが株式会社O:(オー)だ。個人の健康維持はもちろん、企業の働き方改革、生産性向上、リスクマネジメント対策まで――体内時計による健康管理社会の実装を目指す同社の取り組みを取材した。

不眠による経済損失は、3.5兆円!

「不眠」の影響は甚大だ。遅刻や作業効率、生産性の低下など、不眠に端を発した経済損失は実に3.5兆円にものぼる。不眠と疾患との関係も根深い。うつ病の初期症状は不眠であることが多いし、糖尿病との相関も大きい。不眠になると分泌される「コルチゾール」というホルモンの影響で肥満に繋がるのだ。「質のいい睡眠」は、健康な生活に必要不可欠といえよう。

O:(オー)を立ち上げたのは、自身も広告代理店勤務時代に不眠に悩んだという谷本潤哉氏。時計を持たない1週間の無人島生活で不眠が改善したことから、「体内時計」の有効性を実感し、睡眠改善に生かせないかと着想。睡眠研究が進んでいる国立の研究開発法人の協力を得て、「睡眠コーチングサービスO:」を開発した。アプリに入眠時間や起床時間を入力すると、睡眠パターンを分析したうえで睡眠コーチングを行ってくれるというもので、現在、大学機関と提携して臨床実験を準備中だ。

「睡眠コーチングサービスO:」画面イメージ(実証実験中)。体内時計に即した睡眠スケジュールをコーチングしてくれる

サービスの大きな特徴は「不眠症に対する認知行動療法(CBT-i)のメソッドを組み込んでいること。CBT-iとは欧米の睡眠医療の臨床現場で広く実践されているプログラムで、不眠治療の有効性が海外では広く認められている。しかしながら、日本では保険適用外のため高額専門家数が少なく、受診できるクリニックにも限りがある。週1回のカウンセリングを要し、期間は短くても8週間ほどかかる。その過程で、睡眠ダイアリーを患者が記入し、睡眠スケジュール調整を行うが、労力を要し脱落する人が多いという。

そこで「睡眠コーチングサービスO:」では、以下の2つを柱とする。

  • 睡眠スケジュール法…本人の睡眠習慣をもとに適切な就寝時刻を導き出し、睡眠リズムを整え、健康的な生活をサポートする
  • 睡眠衛生教育…正しい睡眠知識を獲得し、睡眠への不安払拭を目指す。たとえば、一般に言われる一律8時間の睡眠時間がよいとか、22時から2時の間に成長ホルモンが多く分泌されるというような不眠に繋がるような誤解に対して、正しい知識をアプリ内のコラムで紹介していく

これらのログ解析を通じてコーチングを展開。ユーザーは場所や時間を問わず低価格で受けられる。

睡眠衛生教育として提供するアプリ内コラムイメージ

三菱総合研究所主催「第1回 未来共創イノベーションネットワークビジネスアイデアコンテスト2016」ではグランプリを獲得。2017年4月からはフォローアップ策の一環として三菱総合研究所で実証実験をスタートし、働く人に対する効果計測を確認している。現在、実証実験を通じて、従業員の睡眠改善や労働生産性向上を目指す法人を募集している。

体内時計を計測するウェアラブルデバイスの開発へ

現在は、アプリのみでの提供だが、体内時計を計測し、可視化するオリジナルのウェアラブルデバイスの開発も進めている。生体データを計測するウェアラブルデバイスは市場に多く出回っているが、いずれも体内時計は測定できない。

 「“腕時計型体内時計表示機”のようなデバイスで、寝るべき時間や、光を浴びるべき時間帯を視覚的に表示。面倒な入力なしに、体内時計に応じた生産性高い活動をサポートしたい」(広報・菅野明日美氏。以下「」内同)

研究が進めば食事の時間帯や運動時間など、日常生活動作の最適時間がわかるようになり、QOLを向上させられるという。

今後の展開としては、B to Bから手がけ、B to Cに広げていく。

「2016年から義務化されたストレスチェックにより、心身両面でのハイリスク者が以前よりはあぶり出されるようになった。だが、人事全体としては個人のプライバシーもあり、扱いが難しい。入社や異動の時期などストレスが高い時期に社員に使ってもらい、体内時計を整えることでストレスを予防するような使い方も考えている。社員がメンタルをやられる前に先手的な予防として産業医経由で広めていきたい」。

まずは睡眠に課題を抱えていて、比較的生活習慣をコントロールしやすい業界に導入し、セルフケアにより健康管理、事故やトラブルの防止、労働生産性の向上を狙う。

体内時計を測定することは、仕事の効率化にもつながる。この点においても企業のメリットは大きい。

「覚醒度がわかるので集中度の“見える化”が可能。社員ひとり一人について生産性をあげられるシチュエーションがわかれば、個人がパフォーマンスのいい仕事を生み出すことができる。それはつまり企業の利益にもつながること。昨今取り沙汰されている働き方改革にインパクトを与えられるのではないか」

課題として掲げるのは、モニタリング後のフォロー体制だ。

「測定しただけで終わってはダメ。メンタリングの役割を産業医や保健師でフォローできる体制、重症の可能性がある使用者を睡眠外来のある医療機関に送客する仕組みを構築できればと考えている」。

体内時計という自分だけの時間への回帰へ――。社員の健康的な生活が企業の生産性向上と利益につながることを証明する契機となってほしい。

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