シニア向け革新的ビジネスを競うスタートアップビジネスコンテスト ―AGING2.0 TOKYO GLOBAL STARTUP SEARCH― 2017年の最優秀賞を獲得したのは

Opinion

2017.06.14 Wed. 

シニア向け革新的ビジネスの日本代表として、世界で戦う切符は誰が手に入れるのか――。

“世界に誇れる豊かな長寿国日本”を実現するスタートアップビジネスコンテスト「AGING2.0 TOKYO GLOBAL STARTUP SEARCH」が2017年4月26日に開催された。シニア市場に特化した米国ヘルスケアアクセラレーター「AGING2.0」が全世界30都市以上で展開しているピッチイベントの日本大会で、AGING2.0のほか、ヘルスケアIT業界に特化した新規事業創出プログラム「デジタルヘルスコネクト」(主催:インフォコム株式会社)、SOMPOホールディングス株式会社、SOMPOケア株式会社が共同で開催したものだ。

AGING2.0は、世界各都市にローカルチャプターを持っており、今回新たに東京チャプターが発足。超高齢化が進む日本で、介護現場や臨床医療者、アカデミア、スタートアップ、消費者、投資家といった幅広いネットワークを形成し、現場ニーズの把握から市場性評価、コスト検証、サービス評価などに取り組む。2018年には東京でアジアパシフィックサミットを開催する予定だ。

SOMPOホールディングスは、事業の柱のひとつとする介護ヘルスケア事業の中でもデジタルビジョンを主軸に位置づけており、オープンイノベーションの一環としてAGING2.0と提携した。日本企業としては初、世界の保険業界でも初のプレミアムメンバーとなる。

コンテストでは、多くの応募者から選考されたスタートアップ企業6社がピッチを行った。各社が提案するビジネスは、「アイデア・製品」「チームの多様性と強さ・ビジネスモデル」「高齢者向け市場へのインパクト」の3つの基準で審査された。日本代表として、サンフランシスコで開催される決勝大会の出場権をかけて、世界各地域の優勝企業と戦う準決勝へと駒を進めるのは――。激戦の様子をレポートする。

IoT自立支援サービス「モフトレ
モフバンドにより自立のための運動を支援する

最初に登壇したのは株式会社Moff。代表の高萩昭範(たかはぎ あきのり)氏には95歳の祖母がいる。祖母は転倒したものの懸命にリハビリに取り組んだ結果、歩けるまで回復したという。リハビリの重要性を実感するとともに、「最期まで元気でいてほしい」という思いを強くしたことがサービス開発の原点だ。

高萩氏が紹介するのはIoT自立支援サービス「モフトレだ。腕や脚にウェアラブル端末Moff Band(モフバンド)を装着し、タブレットにインストールされたアプリを通して自立支援に向けたロコモ(※1)予防動作トレーニング、日常生活動作トレーニング、頭脳トレーニングをワンストップで受けられる。さらにモフバンドが自動的にモーションデータを記録、分析し、その結果をもとにその人に合わせた目標を設定する。介護事業所での利用を想定しており、レクリエーションのプランニングまで行うので、施設スタッフの業務も軽減する。

※1 ロコモ:運動器症候群。ロコモティブシンドロームの略称。運動器のいずれか、あるいは複数に障害が起こり、「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態のこと。

高萩氏は、介護予防についてアメリカやアジアでも意見交換し、高いニーズを感じたという。「サービスの海外展開に向け、手応えを感じている。本気で取り組み、日本発IoT介護支援・介護予防サービスを広めたい」と気を吐いた。

審査員からは、「利用者のモチベーションを発生させる方策は」、「状態が悪くなってきたときにどう対処するのか」、「今後のコンテンツや評価法は」といった質問がなされた。

 「コンテンツは随時追加していくとともに、悪化した場合のトレーニングプログラムや目標も提供したい。またトレーニングをした場合としない場合とを比較して、効果を見せていき、何かしらの社会的利益として還元していく」(高萩氏)

歩行速度を自動計測するアプリで
フレイルや軽度認知障害の予兆を知る

続いて登壇した健康寿命デザイン株式会社の椎名一博(しいな くにひろ)氏が注目したのは、歩行速度だ。歩行は、認知症、健康寿命、フレイル(高齢者の身体機能や認知機能が低下して虚弱になった状態)との相関関係が高いという研究結果が出ている。そのため、歩行速度や歩幅はこれらの予兆、回復の指標になると分析したという。そこで、スマートフォンを持って歩くだけで、自動的に直線歩行区間を抽出し、歩行速度の変化を検出、計測するアプリを開発。歩行速度を正確に把握することができるアプリは史上初だと胸を張る。

「1分に20メートル程度歩行速度が低下するだけで、認知症前段階である軽度認知障害(MCI)やサルコペニア(筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態)のリスクは高まる」。そこで早いうちに予兆を察知することで、回復を促し、意識して速足にすれば健康寿命も年単位で伸びると断言する。「歩行速度を知ることで意欲を引き出し、計測自体だけでも健康寿命を延伸し、認知症前段階からも引き戻すことができる」。

すでに、太陽生命認知症治療保険の契約者向けにサービスを開始。認知症回復に効果のある靴や筋肉をつけるためのサプリメントや食事などといったサービス展開も視野に入れ、回復支援の手伝いをしたいと意気込む。

審査員からは、「速く歩くと認知症も改善すると言えるのか」、「トレーニングまでパッケージしないとビジネスにならないのではないか」といった質問が投げかけられた。

速足により、軽度認知障害(MCI)から44%が改善したという研究結果が出ている。日常的に運動するだけでプラスの効果があるが、企業とタイアップするなどのサービス展開も考えている。今後『長時間ゆっくり歩く』『短時間速く歩く』といったトレーニング比較により、より効果的な方策も明らかになっていくだろう」(椎名氏)

視線を使った意思伝達システム「RICANUS(リカナス)」
重度介護状態の人のQOLを改善する

株式会社デジタルリーフの寺島健一(てらしま けんいち)氏は視線を使った意思伝達システム「RICANUS(リカナス)を提案した。寝たきりの高齢者は声や動作で意思を伝えることが困難で、大きなストレスを抱えている。一方、介護者もコミュニケーションを取ることに苦労していると問題を提起する。

リカナスはiPadの画面上に表示されるボタンに視線を合わせるだけで、手や声を使わなくてもメッセージを送信することができる。

「従来から視線を使ったシステムはあったが、それらは、高額であるうえに大きなモニターが必要で、限られた人しか使えなかった。リカナスはiPadにアプリをインストールするだけで使え、他の機器は不要。既存システムが100万円以上するのに対して、初期費用ゼロ、月2万円の利用料のリカナスなら、2年使用しても既存システムの半額以下だ」(寺島氏)

電動車いすでの視線による方向指示や、視線を使った脳トレ・認知症予防ツールなど、他の機器と連携することで、他のものづくり企業との連携も可能となる。ターゲットは重度の介護状態の方だが、用途を広げることで市場は拡大すると展望を語った。

「コミュニケーションの改善でQOLを改善するとともに業務ストレスを軽減、業務稼働効率も向上する」とアピールした。

審査員からは、「価格優位性だけでなく機能の優位性は何か」「脳トレや認知症改善と視線との相関関係は何か」といった点が質問された。

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