その不注意、ADHD脳が原因かも? 職場の困った人たちを活かす前向きなトリセツ

Opinion

2017.07.24 Mon.  木原洋美

不注意、多動性、衝動性
3つの特徴ある「癖」に注目

司馬医師によると、「『ADHD脳』とは発達障害の1種で、脳の癖のようなもの」だという。

脳にはさまざまな機能を請け負う場所があるが、ADHD脳の場合、毎日決まったことをコツコツやるための場所や、日常生活を確実にこなしていくための場所が上手く機能しない「癖」があるらしい。

昔から「無くて七癖」という。たとえ自覚はなくとも、人には必ず癖がある。そしてADHD脳の癖には、3つの特徴がある。

◎特徴1:不注意
注意力や集中力を持続できず、気が散りやすい。やたらと忘れものや失くしものをする。これらは、忘れてはいけないという意識を持続できないために起こる。同様に、遅刻、ケアレスミスなど、不注意が原因で起こるトラブル数多し。
家の鍵や財布をしょっちゅう失くしたり、大切な書類をタクシーや電車の棚に置き忘れたりするのはこのタイプ。書類には誤字脱字が多い。
社会的な地位が高いにもかかわらず、呆れるような「脇が甘い」行動をしてしまう。

◎特徴2:多動性
落ち着きがない。周囲から見ると、大人なのにいつも慌てている印象。あっちを考えたり、こっちに気をとられたり、せわしなく動いている。よく物にぶつかったり、部屋やデスクの中が散らかって収集がつかなくなったりするのもこのタイプ。「片づけられない症候群」で悩んでいる人も多い。
室内でクラブを持ってゴルフのスイングをし、物を壊して慌てる、といったトラブルも起こす。よく言えば「フットワークが軽い」。ただし、単純作業は苦手。
能力が高い人の場合、同時に複数の作業をこなすのが得意。

◎特徴3:衝動性
自分の感情や周りの刺激に反応しやすく、思いついたことはすぐやらないと気が済まない。「今はこんなことやっている場合じゃない」といったストッパーが効かない傾向がある。
会話の最中に、相手の話しをさえぎったり、並んで順番を待つのが苦手ですぐイライラし、割り込みをしたりするのもこのタイプ。何より、失言が多い。「空気」を読んで行動することもない。
ドラマ『ガレリオ』(東野圭吾原作)の主役で天才物理学者である湯川学准教授も、事件の答えを思いつくやいなや、窓や地面、テーブル等々そこらへんにあるものに、解答を導き出すための式を書きまくらずにはいられない。周囲を困惑させる、まさにADHD脳の持ち主。一般社会で働くのは難しそうだ。先のA医師も立場を顧みずに院内で「プライベート排煙機」を自作してしまうのは「不注意」で脇が甘いし、取材中にも工作を始めてしまうのは「多動性」、空気を読まないセクハラ発言は「衝動性」そのものだ。

ただ、子どもの頃を振り返ってみると、クラスに1人2人は必ずいたような気がする。

「そうですね、日本人の子どもを対象にした調査では、全体の5%がADHD脳というデータがあります。子どもの頃、ものすごくおしゃべりだったり、ちょこちょこ動き回ってものすごく落ち着きのない友だち、いましたよね。あの子たちのことです」(司馬理英子医師、「」内以下同)

改善はするのだろうか。

大人になると、だいたい3分の1はよくなり、3分の1は表だっては判らなくなります。どういうことかというと、外ではなんとか普通に活動しているものの、家に帰るとゴミの山で、人知れず悩んでいるといった感じです。いわゆる『片づけられない症候群』ですね。
そして残りの3分の1は、大人になっても改善しないと考えられています。
でも病気ではありません。発達がゆっくりしている、あるいは『脳の癖』なのです。脳には、『前頭前野』と『側坐核』という領域があります。感情のコントロールタワーみたいな場所なのですが、ADHD脳の人は、ここで働くべきドーパミンなどの神経伝達物質が上手く働かないため、特徴的な症状が出てしまうと考えられています」

人間性ではなく、脳に原因
でも病気ではない?

脳に原因があるのに、「病気ではない」というのは、かなりわかりにくい。というのもADHDは、医師の診断がつけば保険で治療することができる「病気」だからだ。

ようは、A医師のように自覚がなく、治療しなくても社会的に成功し、生きづらさを感じつつも普通に社会生活ができている場合は、病気ではない。本人が自覚し、治療を必要とするのなら病気、という区別になるのだろうか。(社会的に成功していなくても、よほど極端に困っていない限り、病気にはならないかもしれない)

実際、ADHDの診断は難しいし、大人のADHDを見てくれる医療機関も少ない。
仮に、医療本に書いてあるチェックリストを見て、すべて当てはまっていたとしても、必ず診断が出るとは限らないし、治療の必要はないということになる可能性もある。

精神科や心療内科の領域には、こうした病気が少なくない。

さらに、あの人はADHD」と決め付けることが、差別につながることもあるから、一層難しい。

職場にいるADHD脳の同僚・上司のトリセツ

しかし、職場の同僚や上司がADHD脳っぽい場合は大変だ。特に、真面目で、規律と協調性を重んじる、きっちりしたいタイプの人にとって、ADHD脳の持ち主は、耐え難い相手なのではないだろうか。

なぜなら、真面目で、規律と協調性を重んじる、きっちりしたいタイプとは即ち、日本人の特性そのものでもあるからだ。

そんな、日本人的な多くの人たちに向けて、司馬医師は次のようにアドバイスする。

◎アドバイス1:締め切りは前倒しで設定、必ず中間チェックを!

「ADHD脳は、余裕のあるスケジュールで何かを依頼したとしても、ぎりぎりまで放置し、結果として遅れたり、やっつけ仕事になる傾向があります。締め切りは常に、実際よりも前倒しの日時を伝えましょう。ただし、『いつも、どうせ遅れるのを見越したスケジュールを立てている』と見抜かれないようご注意。
そして中間で何度も、『どうなっていますか』『できているところまで見せて』と確認してください

◎アドバイス2:精神的なサポートも重要
これは上司ではなく、同僚、特に、部下に対する接し方。

「根気に欠ける傾向がありますので、難しいところや分からないことがあると作業が完全にストップしてしまいがちです。こまめに相談に乗ってあげて、随所でアドバイスしてあげてください」

◎アドバイス3:優先順位を決め、段取りを立ててあげる

「一度に複数のことを頼むと、本来の優先順位は無視して、自分のやりたいことから手を付けてしまい、しかも、途中でほかの仕事に気持ちがうつってしまう傾向があります。できるだけ、1つの仕事を終えたのを確認してから、次の仕事を頼むようにしてください

つまり、上司に対しては有能な秘書に、部下に対しては頼れる上司になるということだろうか。

◎アドバイス4:必ずダブルチェックする

「普通ではありえないような、簡単なミスを犯す傾向があります。重要な書類等は、必ず複数の人間で、ダブルチェック、トリプルチェックを行ってください。忘れ物が多いので、大切なものは持たせないことも重要です」

◎アドバイス5:繰り返し「言葉がけ」

「集中力を維持させるために、意識的に、『言葉がけ』してください。気が散るのも、忘れ物が多いのも、決して悪気があってではないので、『大丈夫ですか』『頑張ってますか』『お手伝いすることはありますか』の一言でも効果は大気にかけてあげましょう」

◎アドバイス6:単調な仕事はさせない

「単調な仕事は不向きです。遅いだけでなく、ミスが多く、本当に居眠りしてしまうこともあります。フォローするために余計な労力を要し、『頼むんじゃなかった』という事態になるでしょう。
職場の平和のためにも、単調な仕事は極力、他の人に任せるのが正解です」

◎アドバイス7:適性を見極めて認める

「ADHD脳の持ち主が部下の場合は、適性を見分け、イキイキと力が発揮できる仕事をさせてあげましょう。苦手を克服させようとか、社会人なら努力が必要、といった『思いやり』は通じません。逆に、嫌になって途中放棄されたり、あの上司は理解がないと怒りを募らせられる事態になりかねません。
でも、適正がある仕事を任せた場合も油断しないでください。好きなことしかやらない傾向があるので、常に、『今何をなすべきか』認識を促す必要があります」

果たして、社会人にここまでやってあげる必要があるのか、憤りを覚える人もいるだろう。
だが、司馬医師は言う。

「確かに納得できない方もおられるでしょう。でも、ADHD脳の人を活用するには、モチベーションを持続させることが大切です。ADHD脳の人は、自由な発想で殻を破れる人が多いと言われています。力を発揮できるようサポートしてあげれば、組織に大きなプラスを与えてくれるのではないでしょうか。へんに委縮させたり、排除するより、そのほうがずっと意味があります。
グーグルやアップルなど、外資系のIT企業やクリエイティブな業種には、ADHD脳の人が多いような気がします。日本社会ももっと、寛容性を持つべきです

ADHD脳の人の中には、社会に出て初めて、生きづらさを実感する人も多い。幼少期や学生時代は、親や学校のフォローを得やすいからだ。しかし、独り立ちして働くようになると、そうはいかない。「職場の困ったちゃん」的な扱いをされ、失敗体験を重ねることで、自己評価が極端に低下し、不安感が強くなる、劣等感や自責感に苛まれる、意欲がなくなるなどして、うつ病や不安障害といった「二次障害」を併発してしまうこともある。
それはあまりにも悲惨だ。

ADHD脳の本人たちに悪気はない、脳の癖だと思えば、周囲も対処のコツがつかめるし、気持ちも落ち着くのではないだろうか。

ADHD脳をどう受容するかは、日本社会がグローバルに成長していくための関門でもある。

司馬理英子 Rieko Shiba

司馬クリニック院長

岡山大学医学部、同大学院卒業。
1983年渡米。アメリカで4人の子どもを育てるなか、ADHDについての研鑽を深める。
1997年『のび太・ジャイアン症候群』(主婦の友社)を刊行。ADHDをはじめて日本に本格的に紹介した同書は、大きな反響を呼び、ベストセラーとなる。同年帰国し、東京都武蔵野市に発達障害専門のクリニックである「司馬クリニック」を開業。子供と大人の女性の治療を行っている。
『新版 ADHD のび太・ジャイアン症候群』(主婦の友社)『「片づけられない!」「間に合わない!」がなくなる本』『「発達障害のわが子」と向き合う本』『「ADHD脳」と上手につき合う本』『どうして、他人とうまくやれないの?』(以上大和出版)、『マンガでわかる 私って、ADHD脳!?』(大和出版、司馬理英子著/漫画 しおざき忍)など著書多数。

Writer Profile

木原洋美 Hiromi Kihara

医療ジャーナリスト

週刊現代『日本が誇るトップドクターが明かす』(講談社)、ダイヤモンドQ『がん 心臓病 脳卒中 備え方・付き合い方』(ダイヤモンド社)、ドクターズガイド(時事通信社)等、雑誌・ムック本を中心に企画・取材・執筆を多数手掛けている。ダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社のWEB)コラム好評連載中。

 

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