テクノロジーは「働き方」「健康経営」をどう変えるか?

Opinion

2017.08.22 Tue.  HEALTHCARE Biz編集部

テクノロジーは、私たちの働き方をどう変えるのか。そして、健康経営にいかに寄与するのか――。

“【Health Tech × 生産性】 ~テクノロジーが変える働き方~”と題したイベントが5月30日にサムライスタートアップアイランドにて開催された。テクノロジーが変える「働き方」は、私たちの仕事への向き合い、そして生き方をも問いかける。和やかな雰囲気ながらも白熱したパネルディスカッションの様子を編集部がレポートする。

【Health Tech × 生産性】 ~テクノロジーが変える働き方~
パネルディスカッション 登壇者
乗松文夫氏(株式会社FiNC 代表取締役副社長 CAO 兼 CWO)
丸山侑佑氏(ポート株式会社 取締役副社長COO)
吉澤美弥子氏(500 Startups Japan Marketing Manager)
大室正志氏(医療法人同友会 産業医室 産業医)

―― テクノロジーで働き方はどう変わったのか? 今どう変わっているのか?

丸山(敬称略、以下同) ウェアラブルデバイスなどを使ってバイタルデータとって働き方変えていこうというのは、まだまだ日本では一般的でない。その前段階で「働く」にまつわる様々なもの、たとえば、通勤しなければならない、時間拘束されなければならないといったものから解放されなきゃいけないタイミングだ。ITを使って時間や場所から解放され、心地よい場所、ライフスタイルに合わせた時間で働けること。まだまだ、時間的、物理的拘束はとけていない。

たとえば、PORTでは宮崎県日南市にサテライトオフィスを置いている。子育て中のママさんや50代の従業員などが、ライフスタイルや健康状態とバランスとれるよう、柔軟な働き方で時間的物理的障壁をとるようにした。そうしたら、優秀な人が集まるようになった。驚いたことに、日南市では職がないと出ていった若者300人から応募があったほど。働き方に柔軟性を持たせると、優秀な人が揃ってくるというのは一番大きな変化かもしれない。

大室 場所からの開放については、負の側面も見えてきた。かつては、当時流行っていたブラックベリーを持っていることがある種の勲章だった。外でもメールチェックができ、幹部にのみ配布されていたブラックベリーを持っているということは、「外でも仕事していいよ」と認められている裁量権を持った偉い立場の証。実際、当時ヒルズのスタバとかによくいたでしょ?

この「どこでも仕事ができる」特権階級のみの勲章が、テクノロジーの進化で今では下の一般階層にまで広がった。そうなると何が起こったか。上司や経営者はせっかちだから、いつでも従業員に進捗を確認する。だから、社員は常に対応しなければならなくなった。場所からの自由を手に入れたと思ったら、首輪になってしまったというわけだ。

乗松 FiNCでも、同様のことを感じる。子育て中の管理栄養士などに、新しい職を無理なくスムーズに提供できているのは良い点。しかし、私自身の事情でいえば家に帰っても、あらゆる部門から報告がきまくるのは精神的に良くないなと感じる。まさに諸刃の剣。そういう場合、日本は奴隷になりがちだが、アメリカではどうか?

吉澤 自由だけど、パフォーマンスは自分でしっかり管理している印象だ。金曜15時で帰ったかと思うと、土日でも優先順位高い課題には返すといった具合。

乗松 便利だからこそ、コントロールする力が求められるようになったということだ。そのためには、経営者が方針を明確に出すことも必要。そうしないと、だらだら奴隷仕事を助長させることになる。日経新聞に「日本は“熱意あふれる社員”の割合が6%しかなく、米国の32%と比べて大幅に低い(米ギャラップによる従業員のエンゲージメント調査より)」との結果も掲載されていた。これは世界最下位に近い。日本人はよく働くというのは、実は大嘘ということだ。

吉澤 シリコンバレーのオフィストレンドも変わってきている。少し前までは、GoogleやAppleに代表されるようにオシャレなオフィスがトレンドだった。卓球台やビリヤード台があるなど、オシャレで心地よく“ずっといたくなるような”オフィス。それが、あえて簡素なオフィス環境で「長くグダグダ会社にいるのでなく、早く仕事を終わらせて帰ろう」とでもいうべきものが台頭してきた。SnapchatやSlackなどが先陣をきって、他スタートアップも続々と続いている。“西海岸っぽい”というのも変化していくんだなとの印象を持った。

―― ヘルステック導入及び、健康経営を実装する際の障害や難しさとは?

大室 予防医学の導入に言及するのは、企業にとっても気持ちのいいこと。良いことだから誰も反対しないし、良いことをいうのはとにかく気持ちがいい。だから導入はいいが、言いっぱなしになることが問題だ。実施やアウトカムをどう定点観測するかという運営の大変さに課題がある。経営指標が伸びることとの因果関係が出づらいこともあり、何をアウトカムとするかを最初に決めておくことが重要だ。

丸山 導入の検討にあたり、何を基準にゴーサイン出せばいいか自社でも迷う。従業員からの「こうだったら働きやすいから、こうしたい」という提案に、個別的には「それいね」といえる。ただ、全社で取り入れるかというと決めづらい。何を判断基準にすればいいのか。

乗松 若い従業員は、不摂生していても元気。だから、たとえば若年性メタボのリスクについても意識づけは難しい。医学的エビデンス、データを集め、「対策しないとこうなるぞ」「病気発生率はこうだぞ」というホラーストーリーを作ることも必要だと考えている。

大室 何を目標にするかも企業により様々だ。たとえば、健診結果「D判定」の意味ってわかりますか? これは、20年後のリスク。コレステロール値が高くD判定だと、20年後に脳梗塞、心筋梗塞になるリスクはある。でも、じゃあ今日働けないかというと働ける。私が前に産業医を務めていた企業は、平均勤続年数が6年。だとしたら、健診のD判定を減らすというのは、目標として「?」となる。企業の事情に応じた目標設定が欠かせない。
「健康経営銘柄」の選定もスタートし、取得を目指す企業も増えている。とはいえ、何をもって健康経営かは個々の企業によって様々だ。

乗松 「健康経営銘柄」の選定を目指す企業も、ブランド構築、人材採用のアドバンテージとしての目的が多い。とはいえ、だとしてもそれがきっかけで従業員が健康になるのであれば良い。健康へのアプローチは、啓蒙だけでは広がらない。Fincでも、まずは若い人に楽しく続けてもらうことを目指している。その結果、健康になると周りが真似しだすという流れができればいい。LINEでもアプリでも何でもそうだが、若い人が楽しそうに使っていると男性や年齢が上の層にも広がっていく。そういったアプローチで、なんとなくみんなが健康に目覚めるといい

吉澤 従業員にいかに使ってもらうかは確かに課題がある。アメリカでは、健康経営に取り組むことで、従業員1名につき、700ドル医療費が下がるというエビデンスがある。自己負担も減る。でも、それだけではアクティベイトしない。
そんな中、Castlight Healthという従業員個々の情報に基づいた医療費、治療状況、処方箋を一元管理できるアクティベイト率が高いサービスがあるのだが、施策がエグい。iPadを従業員に配布して「何日以内に使ったらiPadをあげます」といったアプローチ。従業員が健康効果を期待して使い始めたかというとそうではない。それでもiPadをある意味バラまいて、使用体験を作ることで継続に結び付けていった。従業員は健康効果を期待していたわけではないが、結果健康になる。アメリカでは、年齢層や業種ごとにどういったアプローチが効くかということも研究され、ノウハウもたまってきた状況だ。

―― 今後テクノロジーで働き方はどう変わると予測するか。

大室 医師の仕事についていえば、診断技術はAIにたいてい負ける。そうなると、カウンセリングの役割がより求められるようになるのではないか。「ほけんの窓口」の医療版のように「この治療法とこの治療法では、こっちのほうが治癒率は高いけど痛いよ」というような。手術に関しても、ダヴィンチのようにロボットによるものが増えていけば、外科医の役割は術後管理、人員配置、感染症管理などプロジェクトマネジメントのようになっていくのかもしれない。

吉澤 労務などあらゆることがSaaSで置き換わるだけでなく、そこから学習して提案してくるようになるだろう。私も英文メールの返信などでは、システムが提案してくれる文を使って返すこともあり、生産性の向上を実感する。そこを効率化できた分で、人間にしかできない部分、ライカビリティなどに時間を割くようにしたい。

丸山 テクノロジーで生産性が高まっていくであろうからこそ、中高あたりの学校教育が重要視されてくると考えている。人間は時間ができると、ネガティブに触れていきがち。大人になっていくマインド面の設計をしていかないと、フラフラする大人が増える社会になるかもしれない

乗松 働き方が変わることで、人の生き方も変わっていくといえる。

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