治療に不満80%?「ケガもないのに、いつまでも痛い」のはなぜ?ー痛み医療の進化1

Opinion

2017.08.10 Thu.  木原洋美

日本人の5人に1人が抱えるという慢性疼痛。しかしながら、日本の「痛み」医療は、欧米に20年もの遅れをとっているという。そんな中、集学的なアプローチで痛み医療を大きく進化させようと邁進するイノベーターたちがいる。変わりゆく痛み医療の姿、そして未来への展望を追った。(HEALTHCARE Biz編集部)

老アーティストのドクターショッピング

※ドクターショッピング (英語: Doctor shopping) :患者がよりよい医療を求めて、医療機関を次々と、あるいは同時に受診すること。

齢90を超え、老いはしたものの、創作意欲は依然旺盛。
「今年も残り4カ月だが、展覧会を2つ開催し、作品集も1冊出版する」
というのが芸術家A氏の予定だった。

独創的でロマン溢れる作品のファンは世界中にいる。
「ファンのためにも、命ある限り創作を続けたい」
A氏はしわがれた声を絞り出すように言った。

しかし、大問題があった。
腰痛だ。

最初に受診したのは、腰痛の名医がいる整形外科。
「脊椎管狭窄症(せきついかんきょうさくしょう)」との診断を受け、身体への負担が小さく、日帰りで行える内視鏡手術を受けた。
結果は、当初上々に思えた。
術後たちまち腰痛は消え、1ヶ月ほどは快適だったのだ。しかしすぐ再発。

A氏は次に、都心の大学病院の整形外科を受診した。
今度の診断は「椎間板ヘルニア」。
手術を勧められたが断ると、神経ブロック注射を提案され、それも断ると、がんの緩和ケアで処方される強力な痛み止めや睡眠剤、精神安定剤を処方された。

だが、それらを服用すると眠くて創作ができないし、体調も悪くなる。困り切ったA氏が3軒目に受診したのは、A氏のように何をやっても治らない腰痛、膝痛、肩こり、頭痛といった難治性慢性疼痛のエキスパートとして知られる北原雅樹医師の元だった。
痛みとストレス、食欲不振で枯れ枝のようにやせ細り、衰弱したA氏を診た後、北原医師は言った。

「Aさんの腰痛は、術後のリハビリ不足と栄養失調から来ています。ほぼ〈医原性〉と言っていいでしょう。
そもそも90代の方に、手術のような侵襲性の高い治療法を取るのはどうかと思いますし、術後に年齢や日常生活に見合ったリハビリを処方しないのは、イマイチどころかイマ3つです。しかも、睡眠剤、精神安定剤を処方するとは言語道断。幸いにもAさんご自身が、『頭がボーっとして仕事に集中できない』と早々に服薬を中止されているので事なきを得ましたが危なかった。

治療としては、年齢も考慮し、かなり集中的なリハビリテーション療法と食事療法を組み合わせて行う必要がありますので、自宅の近くで通いやすい、信頼できるクリニックをご紹介しました」

北原雅樹医師

一時は、寝返りもうてないほどの痛みで眠れず、うつ状態に陥っていたA氏だったが、痛みをコントロールしてもらいながらのリハビリと、適切な栄養指導のお陰で回復し、無事、予定を全うできたという。

ところで、A氏のように、複数の病院を受診し、様々な治療をしてもいっこうに消えない慢性的な痛み(慢性疼痛)に苦しんでいる人は決して珍しくない。

むしろ多数派と言えるかもしれない現状をご存知だろうか。

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