治療に不満80%?「ケガもないのに、いつまでも痛い」のはなぜ?ー痛み医療の進化1

Opinion

2017.08.10 Thu.  木原洋美

「患者の心、医師知らず」な実態

厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2013)によると、腰痛、肩こり、関節痛といった慢性疼痛保有者は全国に約2,315万人いると推計されており,およそ5人に1人が悩んでいることになる。

しかも製薬会社(ファイザー(株))が20歳以上の男女/9,400人を対象に行った「47都道府県比較 長く続く痛みに対する意識・実態調査」(2012)によると慢性疼痛を抱える人の74.3%が「痛みがあっても我慢するべき」と考えていたほか、通院経験のある患者では、42.3%が複数回にわたり通院先を変更していることが判った。

この結果から読み取れるのは、痛みは治らないものと諦めている人の多さであり、諦めるに至った背景に、複数の病院を受診したけどダメだったという経緯が存在していることだ。

さらに同社が15年に実施した「男女比較 長く続く痛みに関する実態調査2015」では、慢性疼痛を抱えているにもかかわらず、約8割にあたる77.4%が現在通院せず、約4割は病院を未受診で自己対処している実態が明らかとなった。

これほど多くの人たちが、痛みを抱えたまま、どうせ治らないと諦め、治療を受けずに我慢しているのが、日本の慢性疼痛医療の現状なのである。

ちなみに同社の調査は、慢性疼痛保有者の「諦め」の裏には、医師との意識の大いなる乖離もあることも浮き彫りにした。

「「痛み治療」に対する医師と患者の意識比較調査」(2016)よると、過去1年間に慢性的な痛みによる通院経験がある人で「医師の診療に満足していない人」は48.4%と約半数にのぼる。一方で、慢性疼痛の治療経験を有する医師は、83.4%が「患者は診療に十分満足している」と思っていることが判った。

まさに、「患者の心、医師知らず」なのだ。

大学では「痛み」を教えない

ではなぜ、「医師」は、慢性疼痛を治せないのだろうか? あるいは、満足のいく医療をしてくれないのだろうか?
前述の北原医師は言う。

「痛みがある患者さんは整形外科を受診しますよね。しかし、多くの場合、そこでは慢性疼痛を診断できないし、治療もできません。レントゲンを撮って骨折等がなければ問題なしと診断し、鎮痛剤や湿布薬を出して終了。

本来であれば、痛みに対して、身体のどこで何が起きているのかを適切に説明しなければならないし、どう治療し、付き合っていくかといったインフォームドコンセントもするべきなのです。急性痛と違って慢性疼痛は生活習慣病ですからね、簡単には治らないし、治療には長い期間を要する。それが判らなければ、患者さんも不安になるし、医師を信頼できず、治療を継続することもできないでしょう。

でも、一般の医師には教えられません。知らないからです。実は日本では、痛みに対して一般の医療者はまったく教育を受けていません。だからどうしたらいいか判らないのです。今ようやく、文部科学省の後押しを得て、いくつかの大学が共通の、Eラーニングを中心とした教育システムの実施に動きだしている段階です。加えて、全国81大学ある医学部の中で10近い大学が、痛みについて教えるようになりました

少し補足しよう。
痛みには2つの種類がある。1つは急性疼痛と呼ばれるもので、組織の損傷など、身体的な危険を警告して、自己を保全するためのシグナルとして有用なモノであると考えられている。急性疼痛は大抵の場合一過性で、外傷や炎症が治れば次第に弱くなり、消えて行く。

一方、痛みの原因となる外傷等が軽減、あるいは取り除かれ、シグナルとしての役割が不要になったにもかかわらず続く痛みを、慢性疼痛と呼ぶ。

慢性疼痛が認知されるようになったのは1960年代だったが、当時は、基本的には急性疼痛も慢性疼痛もメカニズムは同じであると認識されていた。つまり、「ケガの痛みが何らかの原因で長く続いているのが慢性疼痛である」という考え方である。

そして整形外科では現在も、この考え方がベースにあるため、どのような痛みに対してもまずは画像検査を行い、骨の損傷や、過去に傷ついた痕跡等を探す。見つからなければ、使い過ぎや働き過ぎによる筋肉疲労のせいにする。

しかし、慢性疼痛の原因は複雑系。整形外科的なアプローチだけで治療できるものではないことを、患者は身を持って感じているのに、現場の整形外科医は判っていないようなのだ。

Share