治療に不満80%?「ケガもないのに、いつまでも痛い」のはなぜ?ー痛み医療の進化1

Opinion

2017.08.10 Thu.  木原洋美

日本は「痛み医療後進国」

慢性疼痛を専門とする医師らの調査によると、日本における慢性疼痛部位で最も多いのは,背中下部が58.6%,次いで肩が38.7%,頭部が29.7%だが、原因別で見ると,疾患名の特定できない腰背部痛が48.9%で最も多い。また、すべての腰痛のうち、椎間板ヘルニアなどの診断名がつく腰痛はわずか15%程度。残りの85%はやはり、検査しても原因が特定できないのだという。

原因が特定できないのだから、満足のいく治療ができないのも当然かもしれない。こうした状況は、世界共通なのだろうか。残念ながら、そうではないようだ。

日本では薬物療法、手術、神経ブロック注射、電気刺激療法、鍼、理学療法など、様々な治療法が急性痛でも慢性疼痛でも同じように行われているが、欧米では、さまざまな研究方法を用いて治療の効果を検討し、得られた結果に基づいて,その治療に対するエビデンスレベル(科学的根拠と信頼度)が設定されており、治療に活かされている。

以下の表は、身体に対する負担が少ない慢性腰痛の治療法について、エビデンスレベルをまとめたものだが、整形外科で普通に行われている治療法でも評価が低いものがあることに注目してほしい。こんなことでいいのだろうか。

ヨーロッパにおける慢性腰痛に対する低侵襲治療のガイドライン(資料*を一部改編)
治療法 エビデンスレベル 効果 推奨グレード
アセトアミノフェン
(解熱鎮痛剤)
B
鍼療法 適度 B
認知行動療法 B
エクササイズ
(運動療法)
B
集学的リハビリテーション
(整形外科医と心療内科医の連携による)
B
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) 適度 B
脊椎マニピュレーション 適度 B
オピオイド系鎮痛薬 適度 B
ベンゾジアゼピン系
薬剤
適度 B
マッサージ 適度 B
ヨガ 適度 B
三環系抗うつ薬 小-適度 B/C
抗てんかん薬 C
腰痛教室 C
牽引 有害性はない D
アスピリン
(解熱鎮痛剤)
判定不可 I
バイオフィードバック
(筋緊張の抑制)
判定不可 I
干渉波 判定不可 I
低出力レーザー 判定不可 I
腰部サポーター
(コルセット)
判定不可 I
短波ジアテルミー
(高周波電気治療)
判定不可 I
骨格筋弛緩薬 判定不可 I
経皮的末梢神経電気刺激
(TENS)
判定不可 I
超音波 判定不可 I

※推奨グレード A:強く推奨する,B:推奨する,C:推奨しない,D:推奨しない,治療効果なし,I:エビデンス不十分
*慢性腰痛ガイドライン(Chou.et.al,.2007)

複雑系の慢性疼痛治療

北原医師は、91年から5年間、ワシントン州立ワシントン大学の集学的痛み治療センター(世界で初めて設立された痛み治療センター)に臨床留学。麻酔科、脳外科、一般内科、精神科、神経内科、リハビリテーション科の医師に加え、臨床心理士、理学療法士、看護師等がチームを組み、対等な立場で協力して治療に当たる、「集学的な痛み治療」を学んだ、日本における痛み治療のパイオニア的存在。この4月から、長年勤めた東京慈恵会医科大学附属病院(東京都港区)ペインクリニックを辞し、横浜市立大学附属市民総合医療センターにてペインクリニックを立ち上げた。

巷の「ペインクリニック(痛み外来)」の多くは、麻酔科医が単科で診療に当たり、主に神経ブロック注射を得意とするが、それらと北原医師が提供する医療は、まったくの別物だ。

一言で説明するなら「複雑系」。一回の手術、一回の注射で治せるほど、慢性疼痛は単純ではないと認識している。

ゆえに初診はじっくり2~3時間。事前に記入する詳細な問診票を見ながら、日頃の生活ぶりや気持ちの問題、忘れていた病気のことまで丁寧に聞きだしていく。

検査も独特だ。たとえば肩こりを訴える患者に対しては、まずそのコリが、骨や神経の異常や内臓の病気が原因ではないことを確かめるため、CTなどによる画像検査と血液検査のほか、神経診断も行う。
病気でないと判ったら、今度は「首・肩・胸背部の動きや姿勢」「肩関節の可動域」「筋肉のトリガーポイント(押すと強い痛みを感じるしこり)」の3点を調べる。

「症状や所見など、患者さんは様々なところで証拠を残しています。それらを全部検証し、詳らかにして、最も矛盾なく説明できるストーリーがあれば、それが真実=正しい診断に結びつきます。名探偵コナンに出てくる毛利小五郎みたいに、重要なことを無視したり、重要じゃ無いことを重要視したりすると、冤罪、つまり誤診に繋がるので要注意です」

そうやって突き止めた“真犯人”には、かなり意外なものもあった。

「30代の女性が、重症の肩こりということで来院されました。うちに来るまでに、ストレートネックから内臓疾患まで、様々な原因を疑われてきましたが、すべて違っていたと。

実際、検査をしても身体的な異常はなかったので、よくよく話を聞いてみたら、毎日朝昼晩、食後と寝る前に、一回30分ずつ歯磨きをしていました。一日合計2時間ですよ。そりゃあ肩も痛くなる(笑)。

しかし、本人は普通だと思っていました。10年ほど前にテレビで歯を大事にしないと大変な病気にかかるというのを観て以来、強迫神経症みたいに磨いてきたようです。さっそく、歯磨きにかける時間を短くするよう指導したら、肩こりはたちまち解消しました」

単に痛みだけではなく、全人的に治療する、本当の意味でのペインクリニックだからこそ解明できた真実なのではないだろうか。

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