産官学のイノベーターたちが語る“予防医療”の今と未来 ーメドピアヘルステックアカデミー トークセッションダイジェストー

Opinion

2017.08.16 Wed.  HEALTHCARE Biz編集部

人生100年時代。いかに健康寿命を延ばし「より良く生きる」か。そこにテクノロジーはどのような貢献を果たすのか――。
「『「予防医療×テクノロジー』の“今”をつかみ“未来”をつくる」をテーマに開かれた第3回メドピアヘルステックアカデミー(2017年7月15日、日本橋ライフサイエンスハブ)。
その中から行政、企業、医師、各分野にて次世代予防医療を創り出すキーパーソンによって行われたトークセッションのダイジェスト版をお届けする。現在進行形で進化し続ける予防医療の現状はもちろん、予防への意識の高まりと行動の乖離、個人情報の取り扱いなど多くの課題も山積する中、イノベーターたちが描く未来とは――

パネリスト
富原 早夏 経済産業省商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 総括補佐
白岡 亮平 医療法人社団ナイズ理事長 兼 キャップスクリニック総院長
メディカルフィットネスラボラトリー株式会社 代表取締役最高医療責任者

岡田 定 聖路加国際病院 人間ドッグ科部長
廣部 圭祐 ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社 IoT事業部 SF-Project
沢井悠 サイキンソー株式会社 代表取締役

モデレーター
大室 正志 医療法人同友会 産業医室

意外と広い! 予防医療の3つの領域

大室(敬称略、以下同)
予防医療は、医療の中では1つのジャンル。ただ、カバー範囲が広く、1次予防(健康づくり、病気にしない)、2次予防(早期発見、重症化予防)、3次予防(再発予防、病気の状況をそれ以上悪くしない)の3つの領域がある。今日登壇された皆さんの領域も混在しているので、それぞれ非常に興味深く聴かせていただいたんですが、こうして一堂に会されると・・・まあ、なんというか…まとめづらいです(笑)。

たとえば、白岡先生の取り組まれている「エンタメディカル(セサミストリートキャラクターによる子どもたちへの健康教育の配信)」は、一次予防。岡田先生の人間ドッグ事業は2次予防の保守本流。廣部さんの介護予防におけるウェアラブルデバイスの活用は、高齢者の筋力・体力・認知機能をこれ以上悪くしないという3次予防的考え方。沢井さんの腸内フローラ検査サービスは、現時点では1次予防的アプローチだけど、今後エビデンスが確立されると早期発見のような2次予防的になる可能性もある分野です。

予防医療に積極的なのは、
もともと健康な“意識高い系健康オタク”

大室 今日みたいなセッションの参加者もそうですが、予防医療に関心を持つのは、そもそも健康に気を使っている意識高い系が多い。ヨガやってたり、皇居ランをしてるような層ですね。
沢井さんのプロダクト「マイキンソー(郵送型腸内細菌叢検査サービス)」は、どんな人たちの利用が多いですか?

沢井 1回1.8万円の検査ですが、やっぱり、もともと健康に関心のある人たちの利用が多いですね。遺伝子検査を受けたり、高い人間ドッグも受けているような方です。
マイキンソー」も、現時点では腸内フローラを把握はできても診断ができるレベルには達していません。お腹の壊しやすさや、食べているものの影響といったアウトプットが中心です。ただし将来的には、重篤な疾患についても腸内フローラだけで改善具合を予測できるようになると思うし、その方法ができつつあると思います。

大室 潰瘍性大腸炎を公言している安倍首相に利用してもらえると一気に広がるかもしれませんね。実際潰瘍性大腸炎と腸内フローラの関係は現在研究が進行中の分野ですので。。
岡田先生のいらっしゃる聖路加の人間ドッグはどのような方が受けられているのでしょうか?

岡田 よく患者さんが話されるのは「病気になって払う医療費を考えれば、きちんとした人間ドッグにお金をかけたい」ということです。そういう意味では、健康意識が高い方々に受診いただいているといえるかもしれません。

大室 聖路加の人間ドッグは、ぶっちゃけかなり高額ですよね…。先生の今日のプレゼンテーションの中でも「予防医療の主役は人対人のローテク」とのご指摘がありましたが、やはり聖路加は高い分だけ医師と話せる時間が長いんですか?

岡田 聖路加国際病院の人間ドッグは、宿泊の場合、検査結果説明や生活指導など1人の患者さんに医師が30分から1時間もの時間をかけて丁寧な説明をしています(会場どよめき)。それだけ、予防医療にはコミュニケーションや患者さんへの丁寧な向き合いが必要だと考えているためです。人対人の丁寧なコミュニケーションで医師が患者さんを理解すること、患者さんに結果や生活指導の内容に納得してもらうことが大切。今、AIの画像診断技術や予後予測の精度が飛躍的に高まっていますが、どれだけ正確にできるようになっても、そこから患者さんの生活習慣や食生活を丁寧に問診し、理解し、課題を発見しアドバイスすること、相手の価値観に寄り添った治療判断を行うことは、人対人の丁寧なコミュニケーションでないと成り立たないのではないでしょうか。AIにはそこはできない。そういう意味では、AIが進歩すればするほどそういったローテクの重要性も増すと考えています。

大室 理想的な人間ドッグのあり方で羨ましい。僕が研修医修了後に健診アルバイトをしていた某病院なんてすごかったですよ。混んでる日は看護師さんが鬼気迫る形相で「先生、1時間に100人聴診してください」と凄まれちゃって…。それじゃ心音なんて聞けるわけないよ!・・・という。。。

聖路加国際病院 人間ドッグ科部長・岡田 定医師(右から3人目)、サイキンソー株式会社 代表取締役・沢井悠氏(右端)

予防への行動変容を起こすためには――

大室 もともと健康意識の高い人が予防へも取り組む傾向がありますが、予防にいち早く取り組むべきリスクの高い人に行動変容を起こさせるにはどうすればいいのでしょうか。仕組みを整えればできるというわけではなさそうです。

廣部 そこが一番課題だと考えています。仕組みを整えて「これが答えです」とソリューションを提示するだけでは人間はやらない。どんなインセンティブでモチベーションをコントロールするのか。たとえば、保険と連動させて経済合理性に繋げたり、ゲーミフィケーションだったり…試行錯誤しているところです。

沢井 「マイキンソー」でいえば、腸内フローラの検査に管理栄養士による栄養指導を組み合わせたカウンセリングサービスをトライアル中です。人と人のコミュニケーションでモチベートしサポートしていく形ですね。

白岡 PHR(Personal Health Record)のプラットフォームとアプリで意識を高めようとしています。医療データ、産業衛生データ、ウェアラブルデータなどを手元に蓄積して一生持ち歩くイメージです。母子手帳のデータからデジタル化して一生涯持ち歩けるようにしたいですね。

予防医療を目的とした「医療×運動×IT」のフィットネスクラブも運営しているのですが、フィットネスジムにおける行動変容コンテンツとしてもPHRはもちろん、ゲーミフィケーションやソーシャルアクション、物質的・経済的・精神的の3つのインセンティブなど様々な要素を組み合わせています。行動への外発的動機を刺激することから内発的動機付けに繋がっていけばいいですね。

医療法人社団ナイズ理事長、メディカルフィットネスラボラトリー株式会社 代表取締役最高医療責任者白岡 亮平医師(右から4人目)、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社 IoT事業部 SF-Project・廣部 圭祐氏(右から2人目)

予防サービスのマネタイズのカギは?

大室 予防医療でのお金の取り方は2種類ある。1つはライザップ式。絞りに絞ったターゲットから1人何十万という高額徴収というやつです。もう1つは、薄く広く様々な人に少額課金する方法。アプリで月額数百円を徴収するというものですね。現在ヘルステックと呼ばれる分野は、この後者の例、労働集約型ではないアプリ課金などのモデルを目指している会社が多い。ただこれは、少数の例外を除きなかなかマネタイズがうまくいかないのが現状です。少額積み上げ方式は、ゲームなどと違い予防医学分野は大抵時間がかかるわけです。投資家が思う時間間隔と予防医療が進むスピードにはギャップがある。

富原 予防医療について、どこのお財布からお金を出してもらえるかを考えたとき、個人の財布にするのは難しい。アメリカは、ヘルスケアビジネスが多く生まれ成功しているといわれていますが、長期的に成り立っているものは、BtoBの院内システムとか地域医療介護連携システムのようなものが多い。BtoCもfitbitなどいろんなデバイスやアプリがありますが、保険会社等をプラットフォームにしたBtoBtoCサービスが増えています。やはり健康経営路線とかデータヘルス路線とか、健康経営やらなきゃという企業や保険者がプラットフォームになるのが一番可能性がある。そこを育てることで需要が生まれてくると思っています。

経済産業省商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 総括補佐 富原 早夏氏(左から2人目)

大室 アメリカは、民間の保険会社が医療費を出すわけですから、そのお金を少なくするためには、なるべく長く健康でいてもらうことがインセンティブになる。医療費も桁違いに高いですし。そこで保険会社が中心となってお金を出したりして、色々なことをやっています。沢井さんのところの腸内細菌叢検査なども保険会社など「うちと組んでなんかやろうよ」「うちが応援するよ」という声はあるんじゃないですか。

沢井 保険会社の中でも生命保険会社は、加入者が健康でいてほしいですからね。トータルコストを抑えたいという観点で目線が揃っています。腸内フローラの状態で疾患予測までできることがベストですが、そこまでいかずともまずは加入者の意識を上げるだけでもいいと何件かお話をいただいています。

大室 廣部さんの介護予防プロダクトなどはどうでしょうか。

廣部 保険会社さんからのお声はありますね。ソニーグループの中にも保険会社がありますし。超高齢化社会になると保険が必要なタイミングも変わってくるわけですよね。今まではリスクが高くて保険加入できなかった人の保険のニーズも含めて、検討しているところです。

医療法人同友会 産業医室 大室 正志医師(左端)

会場からも相次ぐイノベーターたちへの質問

―― PHRの活用を考える際、マイナンバーに医療データを統合することも考えられるのではないか。マイナンバーの活用への期待などありますか?

富原 医療保険のオンライン資格確認と医療等分野のIDの導入については、来年度から段階的運用開始、2020 年からの本格運用を目指して、検討が進んでいます。今でも民間でPHRサービスが生まれていますが、 現在色々なところに散らばっている医療・健康データを突合していくのには、これらの健康・医療データを繋ぐ番号ができると、圧倒的に花開くと考えています。

―― 健康経営におけるプレゼンティズムや精神科領域への対応についてのお考えを教えてください。

白岡 プレゼンティズムをどう測定するかが課題。WHO-HPQという指標を使って測定し、まずは第一段階として見える化することを考えています。何をするとプレゼンティズムが改善するかは、実はまだ世の中にほとんど出ていない。測定しながら施策を立て、PDCAまわしてエビデンス化していきたいですね。

大室 JINS MEME(ジンズ・ミーム)の取り組みも1つのやり方ですね。メガネに内蔵した加速度・角速度センサーと眼電位センサーで集中度をはかるというものです。(関連記事

富原 健康経営ではメタボが注目されがちですが、産業医科大学の先生も、健康経営で今後重要になってくるのは睡眠とメンタルだと話されています。

大室 頭痛や睡眠、うつなどは、行動分析や気圧との関係などでAI的なアプローチで翌朝の体調を予測するといったことが期待できる分野。産業的にもチャンスがあると個人的に思っています。

第4回メドピアヘルステックアカデミー、開催決定!

「遠隔医療」の“今”をつかみ“未来”をつくる <第2弾>
~あれから1年、見えてきた遠隔医療の現実そして期待~
2017.9.2 sat. 13:00~17:30 日本橋ライフサイエンスハブ
詳細は、こちらよりご確認ください!

 

Health2.0 Asia – Japan 2017」開催決定!

最新のヘルステックとそれを活用した先進事例を紹介するグローバルカンファレンス「Health2.0」の日本チャプターが2017年12月5日、6日に開催されます。
最新の情報はFacebooktwitterにてご確認ください。

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