ギプスだけで骨折がなくても痛み発生!日本人が学ぶべき、驚きの痛み医療

Opinion

2017.09.22 Fri.  木原洋美

欧米に20年もの遅れをとっているという日本の痛み医療。しかしながら、今、大きく進化しようとしている。その進化を支える最前線に立つのが、愛知医科大学医学部・学際的痛みセンター センター長の牛田享宏教授だ。「痛みは、頭で経験する感覚上の不快な体験であり、”情動”で感じる」ということから、整形外科、精神科、麻酔科、歯科などの専門家で編成されたチームで治療にあたり、痛みのコントロールだけでなく、痛みがあっても困らない緻密なサポートを行う。さらには、同大に日本の医学部で唯一、痛みについて、単位にカウントされる正規の講座を設置。日本の痛み医療、そして教育のイノベーターが描く未来を追った。(HEALTHCARE Biz編集部)

「心頭滅却できずば火なくとも火傷する」

「心頭滅却すれば火もまた涼し」――これは、織田信長に焼き討ちされた寺の僧が遺した有名な言葉。「無念無想の境地にあれば、どんな苦痛も苦痛と感じない」という意味だが、痛み医療の世界においては、これとは真逆の現象が、重要な意味を持っている。

つまり、「無念無想になれなければ、たとえ苦痛のもととなるケガ等が治っていようとも、実際にはケガをしていなくても、人は痛くなる」。

単なる精神論でも、いわゆる「気のせい(本当は痛くも何でもないのに、思い込んでいる)」でもなく、叩かれたり、つねられたり、刺されたり、骨折したりした…と認識した瞬間に、人は本当に痛みを感じ、身体もダメージを受ける。

テレビ番組で、真赤に焼けたコテをあてるふりをされただけで、火ぶくれができてしまったVTRを見たことはないだろうか。あれは決して、特別に思い込みが激しい人だけに起きる現象ではない。「慢性痛」を病んでいる人たちにおいては、程度の差こそあれ、普通に起きることらしい。

「痛み」とは、かくも不可思議な現象であり、そのメカニズムは未だ解明途上。全国で2000万人以上と推定される「慢性痛患者」の80%が「治療に不満」(※1)を抱いていても、無理はないのだ。
※1 ファイザー㈱2015年調査より

それなのに日本では、政府も医学界も、この問題に対して、まだまだ真剣に向き合ってはいない。

たとえば「痛みのケアは診療科・職種の壁を越えて取り組むべきテーマ」という理念から、日本初の総合的痛み診療・研究施設『愛知医科大学医学部・学際的痛みセンター』が設立されたのは2002年。今から15年前になるが、痛みについて、医学生の授業の単位にカウントされる正規の講座を設けているのは、現在も同大学だけである。

愛知医科大学病院

全国2000万人の患者たちが救われる日は遠そうだ。
しかも慢性痛は「寝たきり」の原因にもなる。超高齢社会に当たり 、対策は急ピッチで進めるべきなのに、一体どうしたらいいのか。

2007年2月より、同センターのセンター長に就任し、厚生労働省の「難治性疼痛の実態の解明と対応策の開発に関する研究」では班長を務めるなど、日本における慢性痛医療の研究と臨床を牽引してきた牛田享宏(うしだ たかひろ)医師に話を聞いた。

ちなみに、日本随一の治療を求めて全国から患者が訪れる牛田医師の診察は、もっか1年待ちだ。

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