アプリが“治療”する未来が近づいた! 日本初「スマホアプリの治験」、ニコチン依存症治療にて始まる

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2017.10.23 Mon. 

「スマートフォンアプリの治験」がいよいよスタートする――
ニコチン依存症に対する治療アプリ「CureApp 禁煙」の開発に取り組んできた「キュア・アップ」。これまで多施設共同臨床研究を進めていたが、2017年10月から治験を開始する。薬機法承認を経て、2年後のリリースを目指す。

全国の禁煙外来は1万6000か所、禁煙外来の患者数は25万人というデータがあるが、母数はさらに大きい。2000万人の喫煙者のうち、禁煙に挑戦する人は年間600万人にものぼるという。受動喫煙防止対策が強化されるなか、禁煙挑戦者や禁煙外来はさらに増加することが予想される。

ところが、禁煙外来における治療開始から1年後には7割以上の患者が再喫煙してしまう。ニコチンへの身体的な依存に関しては禁煙補助薬によって対処できても、心理的依存に対しては十分な介入ができていないのがその原因だ。

なかでも、2週間から1か月に1回の診察の空白期間に治療介入が十分に行われていないのが、再喫煙の大きな要因だと考えられている。この治療空白を埋めるため、キュア・アップはニコチン依存症治療アプリ「CureApp 禁煙」を慶應義塾大学医学部と共同で開発、臨床研究を進めていた。

この治療アプリは医学データを独自に解析処理し、医学的エビデンスに基づいて、行動療法や認知行動療法といった専門的心理療法、服薬や通院管理、コーチング、疾患教育などといった個別化治療ガイダンスを患者のスマートフォンにリアルタイムで配信する。患者が毎日の体調や、どれくらい吸いたいか、薬の副作用は出ていないかなどを入力すれば、アプリがアドバイスを返してくれる。また、患者の個性や習慣を見出し、禁煙継続に課題を抱えそうなタイミングでプッシュ通知を送付することも可能。個別化された治療アプリが患者に寄り添い、二人三脚で禁煙を達成していくという仕組みだ。

「この治療アプリの最大の特徴は、診療の際に使用される医師の思考回路をアルゴリズム化したキュア・アップ独自の技術にある」(キュア・アップ代表佐竹晃太氏)。

これまで2年半にわたり8つの医療機関で共同臨床研究を実施し、これまで100人弱の患者データを蓄積したという。「共同臨床研究により、治療アプリの有効性に関する中間報告が内科学会等で発表されている。中間解析結果では、標準禁煙治療だけ行った場合と比べて、治療アプリで介入した群の完全禁煙継続率は12週時点で29.6パーセント、24週時点では27.1パーセント成績が向上している」。佐竹氏は、治療アプリの有効性を治験においても証明したいと意気込む。

呼吸器内科医であり、株式会社キュア・アップ代表取締役・佐竹晃太氏

治験は、さいたま市立病院内科科長の舘野博喜氏を委員長とする治験調整委員会が管理し、慶應義塾大学病院やさいたま市立病院をはじめ30の医療機関において2017年10月から2019年3月まで実施する

患者はニコチン依存症にかかるスクリーニングテスト(TDS)でニコチン依存症と診断され、1日の喫煙本数と喫煙年数を掛けたブリンクマン指数が200以上であるなど、禁煙外来で治療する場合とほぼ同じ基準で選択する。580の症例を予定しており、治験治療群と対照群、それぞれ290例ずつ無作為に割り付ける。標準治療プログラムに加えて、治験治療群には治療アプリで、対照群にはシャム用(疑似的処置)アプリで治療介入。禁煙外来での治療を12週終えた後は24週まで治療アプリ・シャム用アプリを使用し、9週から24週までの継続禁煙率を評価する。さらに52週まで、禁煙が継続しているか呼気中の一酸化炭素濃度測定により経過観察を行う。

調整委員会も治療アプリに期待を寄せる

調整委員会委員で、30年間たばこの問題に取り組んでいるという日本禁煙学会理事の望月友美子氏は、「禁煙外来はあくまでも制度でしかない」と問題を提起。「2000万人の喫煙者=患者」ととらえるべきだとしたうえで、治療のための適切な仕組みがないと指摘する。「禁煙外来受診者25万人のうち7割が再喫煙しているとすれば、禁煙外来1か所当たりの禁煙成功者は5人弱に過ぎないということになる。2000万人の喫煙者に適切なソリューションを提供することで選択肢を増やし、キュア・アップの治療アプリで禁煙への第一歩が進められることを期待する。毎年600万人の禁煙挑戦者が成功すれば、3年後には喫煙者は200万人になる。そうなると未来が開けていくだろう」とメッセージを送った。

委員長の舘野氏は望月氏の言葉を補足する。「禁煙外来は基本的に3か月で終了するため、治療終了時点での禁煙成功者は少なくない。禁煙に成功した患者からも感謝されるため、禁煙治療に携わる医療関係者は喜びを感じることも多いのだが、それと同時に治療途中でドロップアウトする患者や禁煙が失敗に終わる患者に対するジレンマも抱えている」。特に、補助薬の使えない妊婦などはドロップアウトする傾向がある。そうした患者に対して、この治療アプリは大きなインパクトがあるだろうと期待する。

さらに、治療の質向上への期待も示した。治療に当たる医師は資格不要で、認定医制度もない。「日本禁煙学会では経験や知識、症例数などを基準とした認定制度を設けているが、一般診療のなかで禁煙治療を行う医師もいる。この治療アプリが導入できるようになると治療水準も平準化され、医師のスキルも向上するなど効果が高まるだろう」と話す。

一般社団法人日本遠隔医療学会常務理事の長谷川高志氏は「IoTによる遠隔医療が注目されているが、エビデンスが不足している。スマートフォンが登場し、遠隔医療におけるエビデンスが蓄積される意義は大きい」との見方を示した。

兵庫県立尼崎総合医療センター院長、藤原久義氏は「新しい治療アプリを用いてニコチン依存症を治療したいというキュア・アップの熱い思いに共感した」と述べたうえで、日本人はたばこが原因で年間13万人が、受動喫煙により1万5千人が亡くなっているという深刻な実態を挙げ、「治療アプリを成功させ、この死亡者数をゼロにしたい」と期待を寄せる。

慶應義塾大学医学部呼吸器内科専任講師の福永興壱氏は呼吸器内科の視点から、たばこと呼吸器疾患の関連性を指摘し、「一般の外来はもとより禁煙外来でも患者に寄り添った診療には限界がある。治療の空白期間を埋め、患者をサポートする治療アプリに医師としても期待している。治験が成功し、1日も早く、禁煙を考えている患者の手に届くことを願っている」とエールを送った。

佐竹氏は、今後治験、薬機法承認を経て、「『医師が処方する治療アプリ』という新たな治療戦略を創出し、標準禁煙治療としてグローバルに発信していきたい」と抱負を語った。

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■文:坂口鈴香

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