線虫がん検査が世界のがん医療を変える!N-NOSE開発物語

Technology

2017.10.17 Tue.  木原洋美

広津氏に聞いた
不可欠だった生物学者の視点

株式会社HIROTSUバイオサイエンス 代表取締役 広津崇亮氏

では、そんな「N-NOSE」を開発し、実用化を進めている広津崇亮氏(株式会社HIROTSUバイオサイエンス代表取締役)は、一体どういう人物なのだろう。

広津氏のスタートは生物学者。東京大学等で20年以上に渡り線虫の嗅覚の研究に従事し、有名な科学論文誌「Nature」や「Science」にも論文が掲載されたことがある一流の研究者である。

11年前に九州大学に助教として招かれ、同じく助教であった医学部の園田英人氏との共同研究によって、線虫は、通常の検査では発見しづらいステージ0のがんの有無までも、わずか一滴の尿から嗅ぎ分けられることを発見。2015年に発表した論文で、世界を驚嘆させた。

園田氏は当初、犬の嗅覚を利用してがんを早期発見する研究をしていたが、犬ががんを嗅ぎ分ける能力には個体差がある上に、大量の検体を安定的に解析させるのは難しい等の理由で断念。次いで着目したのが線虫だった。「サバの刺身を食べて胃に線虫アニサキスの感染を起こした老人を内視鏡で治療した時に、アニサキスが早期胃がんに噛みついているのを見て、線虫によるがんの早期発見の研究を思いついた」という話は、もはや伝説になっている。(アニサキスが本当に胃がんに噛みついていたのか否かについては、疑問を呈する研究者もいる)

一方広津氏は線虫の研究家。「線虫の嗅覚に対する解析を当時世界で最も沢山やっていたのは私です」と語る。

線虫は、取り扱いが容易な上に大量培養が可能なことから、科学実験などに幅広く使われてきた。人間の100万倍ともいわれる優れた嗅覚を持ち、目がない代わりに、鋭敏な嗅覚でエサの在り処をキャッチして近づいていく習性がある。
20年以上に渡って線虫の嗅覚の研究をしてきた広津氏は、この能力を社会貢献やビジネスに活かせないものかと考える中で、がん患者に特有の臭いがあることに着目。臭いを犬に嗅がせてがんの有無を探る試みもあることを知り「それなら、線虫にだって分るはずだ」と予想し、園田氏との共同研究に取り掛かった。

さっそく行った実験は、シャーレの左側に人間の尿を垂らし、真ん中に50~100匹の線虫を配置して、その反応を観察するというものだった。実験結果は予想通り。垂らした尿ががん患者のものだった場合、30分程度で線虫は左側に寄って行き、一方で、健常者の尿からは遠ざかっていった。

「がん細胞が出す何らかの物質が尿に溶け込み、線虫はその臭いをエサと勘違いして近づいてくるのでは」

広津氏はそう考えているが、成分が何なのかはまだ解明されていない。線虫が嗅ぎ分けている臭い物質は、世界最高水準の分析機器でも捉えられないほど微量なのだという。

ちなみに、広津氏の「線虫研究のエキスパート」という経歴は、N-NOSEの開発にとって、なくてはならない要素だったと言える。

「たとえば普通、尿を採取して、原液を垂らせば、線虫が寄って行くと想像しますよね、でもそんな簡単なことはないんです。実は、尿の原液を垂らしても、線虫は近寄りません。ちょうどいい濃度に薄める必要があるのです。

しかし、多くの研究者は、尿の中にがんの臭いがあるとすると、相当薄まっているのだろう、だから尿を濃くしなければならない、と思うはずです。
でも、私は薄めた。なぜなら、以前に行った研究で、同じ臭いでも濃度が変わると好き嫌いが入れ替わることを確認していたからです。人間も、ちょうどいい濃度の香水はいい匂いと感じても、強すぎると不快に感じますよね。線虫も一緒なんです。

昔の教科書には、線虫は、濃度に関係なく好きな臭いは好き、嫌いな臭いは嫌いな臭いと書いてありました。でも違う。
そのメカニズムを知っていたから、原液に線虫が寄らないと分かった時、私はすぐに尿を薄めることを考えました。そこがやっぱり成功の鍵でした。N-NOSEの開発は、これまでの基礎研究で培ってきたノウハウがあったからこそできた。なかったらできなかったでしょうね」

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