自殺を止める最後の砦、精神科救急の取組み【救急医療の変革4】

Opinion

2017.12.04 Mon.  木原洋美

座間9遺体事件で見えてくる
自殺念慮者の生死の「シーソー」

「本当に死にたいと考えている人はいなかった」――神奈川県座間市のアパートで9人の遺体が見つかった事件の容疑者は、自らが殺害したとされる被害者について、そう供述したという。

事件発覚の発端となった被害女性(23)は自身のTwitterで「♯自殺募集」というハッシュタグを用いて発信し、自殺願望のある女性を物色していた容疑者とつながってしまった。これに対し、ネットでは「死ぬ気もないのに、そんなことを書き込むのが悪い。自業自得だ」「本気で自殺する人は死にたいとは言わない」といった声も一部であがっていたようだ。
だが、横浜市立大学附属市民総合医療センター・精神医療センター教員で高度救命救急センター担当の⽇野耕介医師は首を振る。

「自殺に追い込まれる過程では、100%死にたいという気持ちで、まっすぐ死に向かっていく方のほうが稀だと言われています。
生きづらさを感じて、いっそのこと死んでしまった方がどれだけ楽だろう、という気持ちがある反面、『でもやっぱり○○のことを考えると死ねない』『実際死ぬことも怖くてできない』等の気持ちもあり、生きることと死ぬことの間をシーソーのように行ったり来たりしている方が多いようです。それが最終的に、何かの一押しで『死ぬ』という方向にシーソーがバタンと大きく倒れた状態が自殺なんですね。どの自殺にもあてはまるというわけではありませんが。
座間市の事件の被害者が、どのような方であったのかはわかりません。

しかし、死にたい気持ちと死にたくない気持ちを同時に持ちあわせていること自体は、決しておかしいことでも不思議なことでもない、ということは言えると思います。
だからこそ、救命センターで自殺再企図を防ぐチャンスがあるのだと考えています。なんとかシーソーのバランスを整えてから退院してもらうことによって、少しでも生きる方に傾くお手伝いができればと考えています」

横浜市立大学附属市民総合医療センター・高度救命救急センター 日野耕介医師

日野医師は、救命救急センターに常駐する、日本でも数少ない精神科医である。同センターに搬送されてくる患者のうち1-2割は自殺企図者が占め、実にその9割以上が、なんらかの精神科の疾患を抱えているという。

また一度でも自殺を図った人が、再度自殺を図る率は極めて高いことから、着任以来日野医師は、自殺企図で搬送されてくる患者のほぼすべてに関わり、「シーソーのバランスを整える」努力を重ねてきた。

9割が精神疾患を抱えているといっても、内訳はさまざまだ。

「うつ病で治療中の人、あるいはうつ症状はあったものの治療はしていなかった人、人間関係や身体的病気などの問題を抱えて追い込まれるなかで、自殺未遂をする直前に何かの精神疾患に該当する状態になったという人などがいます」

全国的な統計でも、「救急搬送される人のうち、自殺で搬送される人の割合は10%以上」が平均だ。その中の9割超もの人が、精神科医の手助けを必要とするというのも共通する数字と思われる。
逆に考えれば、精神科医が救命救急と連携し、早い段階から自殺未遂者にかかわって再自殺予防に取り組めば、救える命は少なからずあるということにもなるのではないだろうか

身近な人たちに相談することもなく、死と生への想いの狭間で迷い、ついに死を選んでしまった患者に寄り添えるタイムリミットはわずか2~3日。微かな機会に文字通りの「活路」を見出す、精神科救急の取り組みについて、さらに詳しく聞いていこう。

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