粘り強く、現場主義で開発した――トヨタのリハビリロボは千手観音

Product

2018.01.31 Wed.  木原洋美

患者も理学療法士もゆとりを持って、合理的に歩行訓練ができる下肢麻痺患者のリハビリテーション支援ロボット「ウェルウォーク WW-1000」。(写真提供:トヨタ自動車)

必要なロボットは“アトム”ではなかった

「イメージは千手観音、ああいうロボットが欲しいんです。補助するための手が沢山あって、反応時間は0秒、必要なこと以外はしない、いつでもそばにいる。そうすると患者さんはロボットを環境だと思うから、依存し過ぎずに、自分の弱いところを強くする。アトムっぽくないって? アトムなんてもういいじゃない(笑)」

笑顔で言い切るのは藤田保健衛生大学(愛知県豊明市)の統括副学長で医学部 リハビリテーション医学Ⅰ講座 教授の才藤栄一氏だ。同氏は、日本リハビリテーション医学会の副理事長やリハビリテーション教育評価機構の理事長、日本ニューロリハビリテーション学会の理事等、重職を歴任してきたリハビリテーション医学のリーダーだ。2019年6月に神戸で開催される「国際リハビリテーション医学会」では会長を務める。

才藤栄一氏は、藤田保健衛生大学で、国内の大学では最大規模となる総数535人のリハビリテーション部門を率いると同時に、日本のリハビリテーション医療を変革し、牽引してきた。

才藤氏とトヨタ自動車が共同開発した下肢麻痺患者のリハビリテーション支援ロボット「ウェルウォーク WW-1000」(2017年9月より全国のリハビリ施設を対象にレンタル開始)は、なるほど“千手観音”的だ。

たとえば「ウェルウォーク WW-1000」は、患者が転倒しないよう支えるが、がっちりと支えるのではない。補助輪付の自転車が、いつまで経っても本当に乗れるようにならないのは、バランスを崩しても倒れないからだ。同様にリハビリも、患者にバランスのとり方を学習させるには、体勢を崩したら倒れるようになっていなければならない。ただし、ケガをしないよう、ギリギリのところで転倒を防ぐのも必須。才藤氏によると、この相反する2つの機能を果たすのは、人間には不可能なのだという。

「人間の反応時間はとても遅くて、何かあってから手を出すまで0.3秒かかるわけ。それだと、患者さんは転んでしまう。転んでケガをさせたら医療過誤です。だから療法士は、転ばなくても、転びそうだと予想して先に手を出します。そうすると患者さんは、転びそうになった時に、上手くバランスをとって自分を立ち直らせる練習ができません。

これがリハビリ医学の世界では、“補助パラドックス”といわれる問題ですが、ウェルウォーク WW-1000なら、反応時間0秒で、患者さんの安全を瞬時に確保しながら、練習してもらうことができます

つまり、理学療法士は、ウェルウォーク WW-1000によって、守りと攻めを神業のように両立できるいくつもの「手」を手に入れることができる。ウェルウォーク WW-1000はリハビリを支援する千手観音なのだ。

ところで、「ロボット」という言葉から我々がイメージするのは、鉄腕アトムやガンダムのような姿だ。実際、世間で認知されているリハビリ支援ロボットもヒト型をしており、それを装着すれば、「歩きたい」と考えるだけで、健常だった頃と同じように「歩ける」ことを目指し開発されている。「しかしそれでは、リハビリの役には立たない」と才藤氏はいう。

「歩けることと、歩けるようになることは違います。リハビリに役立つのは、装着して練習することで、歩けるようになるロボットです。鉄腕アトムに憧れていたようなエンジニアには、現場のニーズを考慮せず、ただ動けばいいみたいなロボットを作ってしまうことが多いと聞きます。しかしそれでは、凄いけど役に立たないオモチャになってしまう。我々の目的は、あくまでも、患者さんのリハビリ。ロボットはそのための手段・道具であって、ロボットを作ること自体は目的ではありません」

とはいえ一方で、共同開発者であるトヨタ自動車は、当初リハビリの現場を知ろうとしないまま、ロボット開発を進めていた。

Share