粘り強く、現場主義で開発した――トヨタのリハビリロボは千手観音

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2018.01.31 Wed.  木原洋美

3年間も“死の谷”をさまよったトヨタ

トヨタ自動車と才藤氏が共同開発を始めたのは2007年からだが、その3年前、愛知万博の前年から、トヨタ自動車は人間の役に立つパートナーロボットを作っていた。

「ただ、思うようには進んでいませんでした。これなら絶対役に立つだろうと自信を持ってリハビリの現場に持って行っても、思ったように使っていただけないし、使っていただけたとしても効果が上がらない…というのが続いていたと聞きました。我々も、“アトムに憧れたエンジニア”で、現場のニーズに目を向けていなかったんですね」

そう振り返るのは、11年から昨年末までトヨタ自動車のパートナーロボット部で部長を務めていた玉置章文氏である。

トヨタ自動車 元パートナーロボット部 部長の玉置章文氏。

「なかなか役に立つロボットが作れないので、これはいかんなと。リハビリの専門家に相談しようと調べたところ、パートナーロボット部がある愛知県豊田市の近郊に藤田保健衛生大学病院があり、才藤先生というリハビリ分野で高名な先生がいることが分かり、飛び込みでお願いしに行ったのが、弊社と才藤先生とのご縁の始まりと聞いています」

トヨタ自動車の申し出は、才藤氏にとっても渡りに船だったようだ。というのも既に他社と組み、下肢麻痺者用歩行補助ロボット「WPAL(ウーパル)」など、リハビリ分野でのロボット開発に取り組んでいたからだ。

「リハビリには、物理療法と呼ばれる道具を使った治療法があり、以前から行われていました。僕らも専門家として、さまざまな道具を使って患者さんを治療してきたわけですが、だんだん満足できなくなる。もっと早く患者さんを回復させてあげたい、どうしたら助けてあげることができるのか。バイリニストが、ストラディバリウスとかの名器を欲しがるのと同じように、リハビリの質を追求すればするほど、いい道具が欲しくなるのです。そして、気に入る道具がないなら自分で作ろう、ということになる。ロボットも、そういう流れで作っていたのですが、はっきり言って進展が少なく、トヨタ自動車の話は、そんな時に来たのです」(才藤氏)

玉置氏は言う。

「昔から研究開発には、魔の川、死の谷、ダーウィンの海という、3つの関門があると言われますが、我々にとって、才藤先生と出会うまでの、エンジニアだけでやっていた時期はまさに死の谷でした。なにをどうしたらいいのか分からない。やはり初期から、使っていただく現場とロボットを作る側とが一緒になって開発しないと、本当に使えるものは出来ないなという実感がありますね」

しかし1点、不思議なことがある。

トヨタ自動車が世界から、日本のモノ作りを代表する企業として認められている要因の一つは、徹底した現場主義にあると言われている。その大切な基本が、ロボット開発ではスルーされていたというのは腑に落ちない。医療・介護の現場が異分野だからだろうか。昨今、新規事業を成功させる手法として、オープンイノベーションを採用する企業が増えており現在、トヨタ自動車も、オープンイノベーションによってロボット開発の加速化を図っているという。もしも、04年にこうした動きがあったなら、ウェルウォーク WW-1000の開発はもっと早まっていたに違いない。

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